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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

夏風邪。SIDE-MAHIRO

2006-07-16-Sun-22:42
 生まれて初めて夏風邪と言うものをひいた。

 自慢ではないが、今まで怪我は…それこそ、死ぬほど、死にそうなほどした記憶はあれども、病気らしい病気は一度も無かった。
 虫歯すらした事がない。
 だから…
「風邪だな」
 共に行こうと、登校中の祐一の後姿に声をかけた瞬間に聞こえた言葉が、病名なのだと気づくのに、多大な時間がかかったのを覚えている。
 日本家屋の便利な点は、天井が高く、床下も高い。
 部屋を区切る障子と襖は風を通すには快適で…まぁ、冬は寒いという欠点はあれども、今、この夏の最中にはそれは歓迎すべき点なわけで…
 だからといって、その涼しさを堪能するには、己の現状は悪すぎた。
 重い頭に、だるい体。
 言われて、なるほどこれがと納得し…学校を休んだまでは良かったものの、初めは勝っていたもの珍しさも、あまりの具合の悪さに既に風邪なんてひかなきゃ良かった…という後悔に成り代わっている。
 風邪を引いて気づいたこと。
 夢を良く見る。
 それは、子供の頃の自分だったり、つい最近の自分だったりするわけなのだが、揃いも揃って悪夢ばかりを見る。
 仲間が死ぬ様。
 何者かに襲われる様。
 必死に逃げている様。
 暗い闇に一人残されている様。
 悪夢を見ては、起き、夢だったのだと気づいては、再びまた悪夢を見る。
 それが嫌で…
 だるい体を強引に動かし、夕方にも拘らず学校へと行った。情けない話し、屋上に行き、誰かと会い…出来る事なら看病しろと告げ…その誰かが「   」…ならば、尚良いのだが、この際文句は言わない。
 とにかく誰かに会いたかった。
「珠紀に会わなかったのか?」
 予想外に屋上には誰も居らず、ならばと行った図書室で祐一に会った。
 驚くでもなく、ただ淡々と告げられた内容に、慌てたように家へと帰ったのは言うまでもない。


「先輩、どこ行ってたんですかっ!!」
 見えたのは傍目に見ても迷っているのが丸わかりな少女の姿。
 門の前を右に行っては、見えるはずもない門の向こうを覗き込み、左に行っては覗き込み、うろうろと落ち着かないその姿に笑みは浮かび、声をかけた。
 すぐに返ってきたのは、こんにちわでもこんばんわでもなく…
 己を案じる言葉。
 まさか、人恋しさに学校へと行っていたなどと、もちろん言えるはずもなく…
「何考えてるんですか。病人のくせに……。もう、ほら、大人しく寝てくださいよ」
 熱あるくせに…と、強引に手をひかれ、文句を言うと、殴られた。
 看病しに来たという言葉に、緩みそうになる頬を必死に抑えながら、部屋へ通す。
「先輩の家って…広いんですね」
 相手の今住んでいる場所を考えれば、広いうちには入らないだろうにもかかわらず、物珍しげに少女は周りを見る。吹き込む風に瞳を細め、案内した部屋に少女は目を丸くして…
「先輩の部屋って、もっと、散らかっているかと思いました」
 失礼な言葉をさらっと吐いた。
「オマエ、どんな部屋を想像してたんだよ」
「えーっとですね、まず、雑誌が散らかっているでしょ?で、ベッドがあって…和室よりも洋室かな…て、先輩、ほら、寝て。すぐにタオル持ってきますから。…あと、何かして欲しい事とか」
「おかゆ」
 考える前に口から出た言葉に、自分で驚いた。
 だが、口から出てしまえば、すぐにそれをやって欲しいのだと気づく。
「おかゆが食いたい」
 困ったような、迷うような表情。
 そう、もっと困らせてやりたい気にもなり…逃がさないよう、布団に横になる。
 寝たくはないのだが…
「ほら、早く行け。まぁ、あれだ。オマエに美鶴のような料理テクは期待してねぇから」
 額に置かれた冷たいタオルに、ゆっくりと瞳を閉じる。尚も、何か言おうとする少女の言葉を遮り、まるで追い払うようにシッシッと手を振りながら…
「台所は、来た道戻って左に曲がった所。あるもん使って構わねぇから、さっさと持って来いよ」
 言うだけ言って、寝たふりを決め込みながらも耳はしっかりと聞き耳を。
 ひとしきり、文句を言っていた少女だったが、真弘が撤回しないと知れば、諦めたようなため息を一つ。
「作りますけど…作って来たらいないって言うのは嫌ですからね」
 ぴしゃりとしまる障子の音に、思わずにんまりとしてしまうのは、致し方ない事で…






『…オマエの料理も、実は、食ってみたいと…思っていたんだ…』
 月の夜。
 耳に痛いほどの戦いの音と血の匂い。
 風に流されては消え、また充満するそれらに、自分も、相手も、その場に居た全てのものが…まるで幻のように見えた。
 勝てる見込みなんて無かった。
 生き残る事すら、出来るはずがないと思っていた。
 それでも、自分は護らなくてはならない…
 彼女を…


『何故逃げなかった!』


 叫ぶ
 喉が…声が、悲鳴を上げる
 逃げろ
 頼むから逃げてくれ
 護りたいんだ
 敵から…世界から…この世の、オマエを傷つける全てのものから…
 だから…逃げろ…近づくな
 

 側に来るな
 

 俺はオマエを傷つける…
 辛そうな顔をさせてしまう…


 ホントウニ、ソレガノゾミ?

 どこかで声が聞こえる。
 子供のような大人のような、泣いているような笑っているような…そんな声。

『………ウソツキ………』

 本当は逃げて欲しくないくせに。
 ずっと側に居て欲しいくせに。
 何者からも護りたいくせに。
 そのくせ…
 そのくせ…傷つけたくてたまらないくせに…



 闇夜を走る。
 誰も居ない。
 何もない。
 叫び声は消え、感情は消え…



「………」
 暖かい何かが触れた。
 必死に手を伸ばす。
 光が見え………
「………こんなに、小っちゃいのに」
「だーれが、小っちゃいって?」
 何故…彼女が目の前に居るのだろう。
 自分は、暗い中、ずっと…そう、ずっと走り…
 鼻腔を擽る香りと、ほどよい空腹感。
 そういえば、昼食を食べて無かったような気がする。
「食わせろよ」
 両手は動く。体も、夢見は悪かったものの…大分楽にはなっている。
 だが…

 体を起こし、相手を見つめる。
 動揺しているのだろう。大きな眼差しは、尚も大きくなり…
 なんて顔をしているんだ…と、からかおうとした所で、己の顔も赤くなっている事に気がついた。
 差し出される蓮華を咥え、胃へと落ちていくそれは、予想外…というか、予想通りというか…口ではからかってみたものの、かなり旨く…
「どこにも行かないでくださいね?」
 向けられるのは、不安に揺れる表情。
 それを笑顔にしたいのだと思う一方、その表情をさせているのが自分なのだと知れば、浮かぶのは…罪悪感などではなく…むしろ、喜びに近いもので…
「先輩、お大事にー」
 伸ばしかけた腕を知ってか知らずか、少女はその場から去っていく。
「逃げんじゃねぇよ…コノヤロウ」
 零れるのは盛大なため息。
 行く当てのない腕は、そのまま布団へと落ち…その後を追うように、ボスリと布団へ倒れ込んだ。
「しょうがねぇな…………」
 口元に浮かぶのは笑み。
「看病分は…な」
 暗に、逃がすのは今回だけだと言うように。


 自分には、時間がある。
 限られた時間を精一杯生きて来た自分にとっては、贅沢とでも言えるほどの大量な時間。
 無駄にするつもりはもちろんないが…
「男、鴉取 真弘様を惚れさせたんだ。それっくらいは覚悟しておけよ。珠紀」
 ニヤリ…と、少女曰く、悪人のような笑みを浮かべると、そのまま瞳を閉じる。
 不思議と…体にだるさはなく…
 吸い込まれる意識はそのまま…幸せな、夢の中へと。

 
 後日、風邪を引いた事で一歩大人の階段を登り、格好つけた真弘ではあったが…彼は失念していた。
 彼は、あくまでも彼であり…
 少女は、あくまでも少女であり…
「…先輩っ、また私のおかず取った!」
「うっせーな。いいだろ。一個くらい。…ほら、俺様の紅しょうがやっから」
「いりませんっ!…て、言ってる側から、またーっ!」
 一歩、その先に進む、その一歩の前に立ちはだかる壁がとてつもなく分厚く、とてつもなく高く…
 そして…
「珠紀…」
「祐一先輩…有難うございます。…て、好きなんですか?お稲荷さん」
「あぁ、好きだ」
「…ぉい、またこんな所に居たのかよ」
「こんな所って…遼こそ、なんだかんだ言いながら来てるくせに」
 守護者と言う名のライバルが、密かに牙やら爪やらなんやかんやを磨いで隙を狙っている事に…彼は未だ、気づいていない。


←夏風邪 SIDE TAMAKI

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あとがき

えー…えー…………っ、すみませんでしたっ!!
誰?誰だよこれっ。先輩じゃねぇよっ。…と、お思いの方々。私もそう思います。…や、もはや、シリアスなのか、ほのぼのなのか、さっぱりぽんです。最終的にはギャグ風味で落ち着きました(?)が、いや、なんでしょう。
口調ですね。あんなによく喋る先輩が、ほとんど喋らないせいだよ。うん。そして、密かにアンケートにあった、祐一先輩、遼の影を匂わせてみました。彼らがどんな関係を気づくのか…誰にも解りません(ォイ)
ともかく、少しずつ彼らも出張らせ、いずれはオールキャラサイトに…なるといいなぁ。
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COMMENT



浅葱さまへ。

2007-05-19-Sat-04:47

はじめまして。こんばんはっ!
このたびは、当サイトにいらしてくださり、まことにありがとうございますーっ!!
真弘先輩は、オフィシャルですと、どちらかというとギャグ担当ではございますが、そんな真弘先輩だからこその、恋愛や葛藤。想いというものがあると思うのですよー。
ふとした時に見せる表情や、哀愁などは、もう、真弘先輩でなければ出せないものだとっ、私も思っておりますっ!
これからも、浅葱様がこうっ…悶える事の出来るような真弘先輩と珠紀を書いていきたいと思いますので、また、ぜひぜひお立ち寄りくださいませー。
では、最後に…コメント、本当にありがとうございましたっ!!

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2007-05-18-Fri-19:23
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2006-07-17-Mon-02:59
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