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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

糸車。(緋色:慎司×珠紀)

2009-02-27-Fri-03:38



【糸車。】

(慎司×珠紀)






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 嗚呼…だから、それは、本当に些細な悪戯心だったのだ。
 年下の、可愛い可愛い後輩を。
 年下の、可愛い可愛い恋人を。
 困らせたくて。
 慌てさせたくて。
 真っ赤になって、うろたえる姿がどうしても見たくて。
 だから…そう。

「し…んじ…君?」

 思わず、いつものように『君』とつけかけてしまいそうになったから、奥歯を噛んで口を閉じた。



 ゆうらりと揺れる白いカーテン。
 橙の光が窓から入り込み、教室の四隅は濃すぎる影を作っていた。
 待ち合わせは授業終了後に彼の教室。
 今日は、担任から進路の事で呼ばれるからと、少し遅くなるのだと伝えておいた。
 傾いた太陽。
 ざわめきの無い教室。
 珠紀は開いたままの教室の扉に手をかけて、そぅと一歩、中へと入る。
 綺麗に並んだ机と椅子。
ふわりと大きく揺れる、白のカーテン。
 人気の無い教室の、窓際の席に彼は居た。
待ちくたびれたのだろうか。肘をつき、開け放たれた窓の外へと視線を向けるその横顔は、自分がよく知る彼の顔とは、どこか印象が違って見えて…
「し…」
 んじ君?と問うべき声は、珠紀が入って来た事にようやく気づいたのだろう。ゆっくりこちらを向いた眼差しに止められた。
 赤い光。
 濃くなる影。
 いぶかしむような彼の表情。
 けれど、それは一瞬で。
「珠紀さん」
 ふわりと彼の表情が和らいだ。
 優しくて、優しくて、愛しくて。
 そうして、ほっと息をつく。
 そう。これが、自分のよく知る彼の顔で。
 可愛くて仕方のない。愛しい恋人の表情で。
 でも、何故だろう。

 カタリと慎司が立ち上がると同時に椅子が鳴り。
 ガタリと鞄を持ち上げ、机が鳴った。
 小走りに近づくその姿は、いつもどおりの彼なのだけど。
 けれど、先ほどの光景がどうしても頭から離れずに…

「珠紀さん?」
 問われる声に、瞬いて。
 そうして、ようやく気付いてしまった。
 そう、先ほどの彼は…きっと、夕日のせいなのだけど、とても大人びて見えたから、まるで…自分の知る彼とは違うように思えてしまって、少し…不安になったのだ。
 ただ、それだけ。
 現実には、彼は変わらず後輩で。
 そんな事、あるわけはないのだけれど。
 でも…
「先輩の威厳も大切だとは思うんだ」
「はい?」
まるで、某先輩のようだと思いはしたが、それでも、珠紀はその言葉を撤回する事なく、慎司を見つめた。
いつもとは違う、彼の雰囲気。
圧倒された自分の姿。
可愛い…と思っていた恋人の、垣間見えた大人の表情。
その事が何故か悔しくて…だから、恋人であろうとも、自分が年上である事を誇示したかったと言ったなら、彼は呆れるのかもしれないけれど。
振り回したかった。
困らせたかった。
いつものように、赤くなって慌てる彼の姿を見て、そうして安心したかった。
いつもの自分のペースに戻したかった。
だから…
「恋人なんだから、これくらいしてもいいと思うんだよね」
「え?」
 何を…と、彼が続けかけた言葉に、珠紀はゆっくりと口角を上げていく。
 そう。まずは第一歩。
 おあつらえむきに、時は夕方。
 場所は教室。
 シチュエーションは最高で。
 きっと、からかわれたと彼が知ったら、少し怒って、けれど、仕方がないと笑うのだろう。
 そんな姿が見たいから。
「慎司君。そろそろ、珠紀って…呼び捨てにしてくれないかな?」
「………へ?」
 一瞬の間。
何を言われたのか解らなかったのだろう。大きな眼差しを更に大きくしながら、何度も瞬く彼の姿。
掴みはオッケー。
ならば、次は…
「だから…ね。恋人同士なわけだし、そろそろ呼んでくれてもいいんじゃないかなって、思って」
 笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
 純粋すぎる純粋な彼の事だ。きっと、自分の名前を呼び捨てにするなんて事…恥ずかしくって出来ないに違いない。
 困って、困り抜いて。
 やっぱり言えないと、そう、彼が告げたなら、仕方がないという風を装って、いつもの日々に戻るのだ。
 彼を見れば、困った表情を浮かべていた。
 頬が僅かに赤くなっているのも予想通り。
 瞳を伏せ、考えるかのように唇を噤み、俯くと同時に見えなくなる彼の表情。
 そう、あと少し…
「慎司く…」
「僕が、呼べないって思っているんですか?」
 届いた声に思考は止まった。
 幻聴?
「珠紀さん」
 否。
 上がっていく彼の口角。
 ほんの僅かに彼の眼差しが細まって、たったそれだけの事なのに、周囲の気温が下がった気がした。
 凄まれているわけじゃない。
 怒っているわけでもない。
 ただ、彼は微笑んで、いつも通りに珠紀を見つめるそれだけで。
 それだけの、はずなのに…

 ふわり

 白いカーテンが大きく揺れて。

 ふわり

 大きく薄い影が教室いっぱいに広がった。

 目の前には、自分の良く知る彼の姿。
 年下で。
 可愛くて。
 今時珍しいくらいに純粋で。
 けれど、時には自分が驚くほどの強さを持っていて。
 でも、守りたいと思ってしまうくらいに、愛しくて。

「珠紀。これで、いいですか?」
「へ?え?」
 まるで、一言一言確かめるかのように紡がれるのは己の名。
 笑みを浮かべたまま…けれど、少し、怒ったように見える彼の表情は、やはり予想通りだけれど、でも、違う。
 彼は呼べないと。
 呼べるはずがないと…
「貴女が、何を考えて、そんな事を言い出したのかくらい、僕だって解りますよ」
「慎司君?」
「でも、解るからこそ…」
 一歩、彼が近づいた。
 無意識に下がる足。
 恐い…と思った。
 怒っている…からじゃない。
 本気で怒っていない事くらいは、珠紀だって解っている。
 ならば何故…
 捕まれる腕。
 引き寄せられる体。
 触れそうになる唇は、唇の横を通り過ぎ…

「僕だって、男なんだって事…そろそろ気付いてくれてもいいと思うんです」

 囁きと共に、離された。

「し、慎司くん?」
 耳の横で鳴る己の鼓動。
 意図せず熱は頬に集まり。

「珠紀さん?どうしたんですか?」

 一歩離れて微笑む彼は、まるで何事も無かったかのように、珠紀が良く知るいつもの顔で。
「慎司君」
「はい?」
 差し出される掌。
「慎司君」
「はい」
 繋ぐように手を重ね。
「…………ずるい」
 紡ぐ声。
「珠紀さんほどじゃないですよ」
 そう言って微笑む彼は、やはり、優しい、いつもの彼そのものだけど。
「もう、絶対に言わないから」
「………僕は、呼びますよ?そのうち…ですけど」
 何気に、食えない性格なんじゃないか…と、ようやく気付いた、ある日の放課後での出来事である。




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あとがき。

このお話しは、リクでいただきました珠紀を呼び捨てにするグレー慎司君なわけなのですが…うぅむ。うぅむ。ちょっと、今度リベンジさせてください。
何か、音飛びのあるテープみたいな感じの文章になってしまいました。3,4回くらい書き直したんですけどね。…やっぱり、慎司君視点で今度、頑張ってみたいと思います。
同じような話しが出来てしまったら、本当にすみませんー
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