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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

モノクローム。(リトルアンカー:アルヴァ×藍澄)

2009-06-10-Wed-21:39




【モノクローム】

(リトルアンカー:アルヴァ×藍澄)


※ゲーム中のネタバレが含まれます。








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『生きて、帰れないと決まったわけじゃない』

 嘘だ。

『逃げ足には自信があるからな。EUG軍の一個艦隊や二個艦隊ぐらい、軽く巻いてくるさ』

 これも、嘘だ。

 目の前には大きな眼差しから、透明な雫を溢れさせ、自分を睨みつける一人の少女。
 初めて出会った時は、なんて…なんて幼い少女なのだろうと、そう思いはしたけれど。

『私も残りますっ!』

 気がつけば、目で追い。
 気がつけば、その甘い理想を夢見る自分に気づいてしまった。
 髪を撫で、抱き締めて、甘い言葉を囁き、先行く未来を指針する。
 この、戦争の只中で、少女が告げるその言葉が、どれほどに現実味を帯びて居ない事か自分は解っているにもかかわらず、それでも、アルヴァはその言葉に未来を見つめ、その想いをかなえてやりたいと願ってしまった。
 甘い…甘い、砂糖菓子のような、脆くも崩れ去る、そんな夢を。

 だから………

「本当に、俺は臆病なのさ」
 目の前のモニターで繰り広げられる、レーザーの軌道を眼差しで追いながら、アルヴァは手元のコントロールパネルを指で叩き、被害を最小限にしながら回避する。
 最後に見たのは少女の笑顔。
 …本当ならば、そうであるはずだった。
 短い言葉の応酬。
 自分の言葉通りに微笑む少女。
 泣くことはなく、自分を困らせる事もなく…それは少し寂しくはあったけど、けれど、それで良いと納得していた。
 なのに…
「…っ」
 艦内の電気が一斉に落ちる。
 手元を照らしている灯りは今は無く、だが、幸いな事に航行システムに異常は無いらしい。…とは言っても、必要最低限…という言葉はつくのだが。
 平らな盤面に緑色の数字が幾つも浮かび上がり、そのたびに、アルヴァは指を操りパネルを滑らせる。
 また一つ、ミサイルがエリュシオンの脇を掠めて飛んでいく。

 最後に見たのは少女の笑みではなかった。
 笑みであるはずのその姿を、涙に変えてしまったのは他でも無い自分自身で。
 去っていく少女の背中を見送り、閉まるシャトルの扉。
 そのまま背を向け、ブリッジへと歩みだそうとする足は、方向を変えてシャトルに近づいた。

『藍澄…』
 声は聞こえないだろう。
 解っている。
『俺はお前に会って、何度も何度も救われた。お前は自覚していないかもしれないが…俺にとって、お前の紡ぐ綺麗な世界に、この世界もまんざらじゃないと思えたんだ』
 自分の唇を読むなんて芸当も、少女には出来ないだろう。
 それも、解っている。
 平和を求めて戦っているその中で、でも、目にするのは薄汚れた商人と、常に利権を争う政治家達。自分達がやっている事は間違いじゃないと思いながらも、それでも、綺麗な世界を夢に見た。
『お前の紡ぐ理想はすぐ目の前まで来ている。お前が目指し、お前が進み、お前が望んだ世界だ。誰のためのものじゃない。お前のものだ。お前が、お前だけがそれを信じたから…』
 聞こえなくてもいい。
 伝わらなくてもいい。
 ただ、言いたかった。
 最大の感謝と、そして…
『俺は…俺は、お前を守るためにここに居る。………ああ、解っているさ。聞こえて無いんだろう?それでいい。…それでいいんだ』
 指に触れる透明な窓の向こうには、やはり、言葉を紡ぐ少女の姿。
 聞こえない…と、言っているのだろうか。
 それとも、自分の名を呼んでいるのだろうか。
 どちらでも良い。
 どちらでも…

 ああ、惜しむは最後まで少女に口付けが出来なかった事。
 こんな事なら、あの時、少女がどれほどに拒んでも口づけをしてしまえば……
 いや…

 アルヴァは頭をゆるりと振った。

 それでは、駄目だ。
 それでは…駄目なのだ。
 きっと少女は自分を忘れない。
 自分が居なくなった世界で、少女は幸せになれないだろう。
 だから…

 瞼を閉じ…そして、開く。
 涙は、流れない。
 愛しい者と別れようとする今ですら、きっと自分は笑っている。
 幸せだ…と、言ったなら、きっと少女は怒るのだろう。
 けれど、それでも…
『…………愛している。藍澄』

 今にも泣き出しそうに歪む少女の眼差しに笑みを深め、それでも、アルヴァは少女を映す瞳を反らさなかった。
 目に焼き付けておきたかった。
 あんな事を言いながら、自分は生きて少女に逢う事は無いだろう。それが解っていたから。
 だから、あんな…作り物じみた笑顔だけではなく、もっと……笑っていなくてもいい。泣いてもいい。怒っていても、拗ねていても。
 自分が知る全ての少女の表情を、瞼を閉じても消えぬくらいに網膜に焼き付けておきたかった。





「こりゃ、後一発来たらアウト…だな」
 小さく呟きながら、アルヴァはゆっくり椅子の背もたれへと背を預け、パネルに触れていた腕を、両脇へとだらりと下げる。
 ブリューナクの第一波のせいで混乱するEUGの艦隊は、おそらく、もう、エリュシオンを攻撃するどころの騒ぎではないのだろう。
 だが…
「来るな。こりゃ」
 アルヴァは確信していた。
 完成していないブリューナクとは言え、この場面で撃ってきたのだ。しかも、味方まで巻き込んで。
 これで、収まりがつかなければ撃つ意味などありはしないし、一転して、世論は自分達が望むほうへ傾くだろう。
 だからこそ、完膚なきまでに叩き潰さなくてはならない。それには…
 エラー音を発する探査機器。
 集まる熱源。
 予測到達時刻は後……………


『アルヴァさんっ』


 声が聞こえたわけじゃなかった。
 丸いガラスの向こう側。
 涙を溢れさせ、両手を置き、必死に言葉を紡ぐその少女の唇は、ただ、一つの単語を、何度も何度も繰り返し…
「…違う」
 瞼を閉じる。
 あれほどまでに目裏へと焼き付けた少女の表情が、思いだすと同時に消えていく。
「これも、違う」
 見たかったのは泣き顔じゃない。
 見たいのは、少女の笑顔。
 怒った顔も、拗ねた顔も、確かにどれも愛らしく、愛しくはあるけれど、でも、今、自分が見たいのは……

「………っ、逃げ足だけは、速いんだろうがっ」

 瞼を開く。
 動く両腕。
 床を蹴りながら、パネルを押して………




 ノイズのみの白と黒の世界の中で、ようやく少女の笑みが、浮かんで、消えた。



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あとがき。

このシーン、好きなんですよ。すごくすごく好きなんですよ。ガラス越し、声の聞こえない別れ。
…結局、最後まで、何を言っているのか解らずに終わるので、勝手に妄想してみました。
声が聞こえない、言葉が伝わらないからこそ、告げる事の出来る己の真実。
 それは、考えながら紡ぐ言葉ではなく。本当に、感情のままに零れだす音。
 相手が愛しくて、愛しくて愛しくて。死にたくないとか、相手を助けたいとか、その瞬間のアルヴァの頭の中にはなかったと思うんですよね。ただ、藍澄を見ていたかった。
…あぁ、やっぱりアルヴァすきだー
 
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