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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

籠の鳥。 前編(緋色:大蛇×珠紀)

2009-11-10-Tue-23:22



【籠の鳥。-前編-】


(緋色の欠片:大蛇×珠紀)







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 キィ

 バタン

 ガチャリ


 無情にも響いた、その音の三段活用に、珠紀は声を発する事も出来ずその場に座り込んでいた。



『もし、お時間がありましたら、私の家の蔵の整理を手伝っていただけませんか?』


 雪が降るには未だ早く、かと言って、秋と言いきってしまうには頬を撫でる風が冷たすぎた。都会育ちの珠紀にとって、この季封村はそれぞれの季節を実感できる美しい場所ではありはしたが、未だにこの寒さに慣れる事はない。
 それでも、雪が降れば喜び外に飛び出して、皆と雪合戦をするのだから完全に寒さが駄目だというわけではないのだが、それでも…それでも、珠紀は寒さが苦手だった。
 だから、今日…
 そう。珠紀の年にしては濃すぎる経験をした、あの秋の一件より一年。卓と想いを通じ、いわゆる、恋人同士と言う間柄になってから一年。その卓に蔵の掃除を…と頼まれて、完全防寒対策をして、ここに来たのだ。
 とりあえずは学校帰りのための制服。その上に白いセーター。更にその上には赤いコート。首にはマフラー。耳には耳あて。両手には、細かい仕事も出来るようにと指の無い毛糸の手袋だ。
 流石に、制服の下にジャージを履くのは…恋人の前という事もあって止めておいた。だが、それも、限られた時間の限られた場所で掃除を行うための服装だ。
 こんな…
「おや。どうしたんですか?珠紀さん?」
 真上からかけられた声に、珠紀はぎこちなく顔を上げていく。事が事なだけに動きやすさを重視したのだろう。いつもの和服ではなく洋服に身を包んだ卓の姿。
蔵の奥で掃除をしていた卓の耳に届く事は無かったのだろう。
 半開きの扉が風によって押され。
 重い鉄の扉が見事に合わさり。
 その振動によって、鍵の役割を果たしていた鉄の板が落ちたのを。
 ちなみに、珠紀が気付いたのは扉が閉まるその瞬間からである。咄嗟に、これはいけないと一歩進み、腕を伸ばした瞬間に光が消えた。
 まだ、気付いていなければ今、このように世の無情に嘆く事はなかったのかもしれない。…まぁ、それが早いか遅いかの違いだけれど。
「珠紀さん?」
 再び紡がれたその音に、珠紀は震える指先を扉に向けた。
 本来であるならば、電灯の無いこの場所は、扉が閉まってしまえば真っ暗闇になるのだろうが、天窓があるおかげで、それだけは防ぐ事が出来ていた。
 高い天窓から入り込む光は、未だ、日がある事を示している。だが、オレンジ色のソレではなく、薄く灰色の色を保っている所を見ると、天気はあまりよろしくないらしい。
「扉が」
「………」
 どうやらその一言で全てを悟ったらしい卓の様子に、珠紀はへにゃりと眉を下げた。
 ちなみに、今日、卓の家に行く事を美鶴に言ってから家を出た。だから、あまりにも遅いと美鶴が心配して迎えに来てくれるだろう…いや…
「これは、困りましたね」
 顎に指を当て、考え込む卓の様子に珠紀は伸ばしていた腕を下へと落とす。
 確かに、夜遅くに帰らなくては美鶴は心配するだろう。だが、向かった先は恋人の家でもある卓の家だ。今まで泊まって来る事は無かったものの、それでも、迎えに来てくれるとは限らない。
「気付いて、くれると思いますか?」
 無理だろう。即座に自分で否定しながら、珠紀はそれでも言葉を紡ぐ。
 今日は防寒対策をやってきた。いつもよりも念入りに。何時間かかっても良いように、寒さで相手が心配し、中途半端に止める事などないように。だが、それも、帰れる…出れる保障があっての事だ。
 卓の家には卓以外は住んではおらず。
 助けが来るにしても、今日一日は無理だろう。
 …とするならば…
「今日はここで夜を過ごすしかなさそうですね」
 渋い表情を見せる相手の様子に、やはりと珠紀は俯いた。
 一夜を共に過ごす事が嫌なわけではない。
 寒い中過ごす事も…出来れば遠慮したくはあるものの、それでも仕方が無いと割り切れる。
 これが、自分一人であるならば、オサキ狐と共に前向きに助けを待つ事くらいは出来るのだ。
 けれど…
「ごめんな…さい」
 乾いた床に指を立て、珠紀は小さく小さく声を零す。
「珠紀さん?」

『今日は寒いですから、暖かい格好で来てくださいね』
『安全のため、少し扉を開けておきましょうか。私が何かしてからでは遅いですから』
『寒いとは思いますが、終わったら暖かいお茶を入れてあげましょう』

 掃除をしながら紡がれた、全て珠紀を案じるその言葉。
 扉を閉じても構わないと言った自分に、優しい…けれど、悪戯を企んだ子供のような色を瞳に浮かべ、囁かれたその音に、自分は大事にされているのだと思い知った。
 だから…だから、せめて役目は果たそうと、そう、思っていたのに。
「私が、もっと扉を見ていれば」
 そうすれば、二人してこんな所に閉じ込められる事はなく、彼に寒い思いをさせることも…
「珠紀さん」
「…っ」
 紡がれる声は、とても、とても柔らかかった。
 彼が怒る所など、滅多に見る事はない。…いや、笑顔でいながら怒る…特に、一部守護者向けて…は多々あれども、珠紀にソレは向けられた事は無い。
 だから、これも怒っているわけじゃない。容易く予想がつくけれど…
「珠紀さん」
 肩に触れる指先。近づく声。視界に入るのは、床に着いた相手の膝。そして…
「す、卓さんっ!?」
「はい。何でしょう」
 言葉と共に抱きしめられた。
 いや、抱きしめられたならば未だ良い方で。
 彼の膝は、珠紀の体を挟むように両側に伸びていた。
 着膨れて、もこもこになっているにもかかわらず、その背を受け止める相手の胸板。更には…
「あ、あの、手がっ」
「おや。手がどうかしましたか?」
 いや、どうにもこうにも…
 腰に回された腕は、珠紀の丁度お腹の辺りで組まれているわけで。
「ここには暖房器具も何もありませんからね。極力動かず、暖を取るにはこうした方が一番なんですよ」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ」
 確かに自分が悪かったと珠紀は思う。しっかりと反省しなければとも思っている。彼を寒さの中においておくなんてもっての他だ。解っている。
 けれど、これでは…
 バクバクと音を立てる自分の心臓。
 寒いはずなのに、着膨れしている自分の体では相手の体温を感じる事が出来るはずなどないと解っているのに、それでも熱は、高くなって…
「す、卓さん。やっぱり…」
「私は、貴女ほど着ていないので、出来ればこうしていたいのですが…ですが、貴女が嫌だと言うのなら…」
「い、嫌じゃありません」
 慌てて言葉を遮れば、背後から聞こえる含み笑い。『では、お言葉に甘えて…』更に強く抱きしめられれば…
「貴女は、とても良い香りがしますね」

 罪悪感などどこへやら。沸騰しそうな己の思考に、珠紀は強く…強く、瞼を閉じた。



→後編へ

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あとがき。

このお話しは、お友達のあいさんへと捧げます。
いや…いただいたネタに、【二人きりで密室(違)】があったので、これと大蛇さんをコラボしてみました。久々の大蛇さんすぎて、口調が微妙とかはスルーしてください。
嘘です。言ってくだされば直します。そして、後編は大蛇さん視点になります。前編後編のわりには、全3編です。最後はおまけです。
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