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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

飴の檻 (薄桜鬼:原田×千鶴)

2010-05-04-Tue-19:03



【飴の檻】

(薄桜鬼:左之助×千鶴)






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 優しい眼差し。
 優しい声音
 優しい腕。
 優しい体温。
 優しくて優しくて優しくて
 甘やかされているという実感はあるけれど…

「ん?どうした?」
「いえ…」

 怖いと思ってしまうのは、何故だろう。




 色の違う空。
 耳に届く潮騒。
 足元には細かく白い砂。
 それらを一人、視界に入れながら、千鶴は海風に攫われそうになる黒髪を、白い手のひらで首筋へと押し付ける。
 戦いを終えてから。
 あの国を、彼…左之助と共に出てから、一体どれほどの時が過ぎたのだろう。
 この国は、かつて暮らしていた場所ほど四季と言うものがはっきりとあるわけではなく…いや、あるにはあるのだろうが、回りを取り囲む草木の違いからか、目に見えるほどはっきりと、四季を実感できるわけではない。
 気温の変化はわかる。
 空の色の違いでも解る。
 だが、ここには、懐かしい彼らを思い出す…あの花が無かったから。

 サクリ

 背で聞こえたその音に、千鶴は視線のみを横へと向けた。
 もちろん、振り向かなければ相手の姿どころか影すらも見る事は適わないのだろう。それでも、千鶴は振り向くことは無かった。
 決して見たくなかったわけではない。
 ただ…
 そう、ただ、振り向くことが無駄なのだと、そう…思ったから…

「風邪を引くぞ?」
 その思いが正しいと証明するかのように、耳のすぐ横から聞こえた声。肩にかかるソレは桃色の着物。
 おそらく、家に居ない千鶴を心配し…彼、左之助が家から持ってきてくれたものだろう。
 寒いとは言えない外気であったとしても、その上着の存在は暖かく、千鶴は暖を取るように前を引き寄せる。
 目の前には変わらぬ水面。
 青空を受けて煌いてはいるものの、どこか寂しげに見えるのは…間違いなく、自分の心境のせいなのだろう。
 家に帰りたい…わけではない。
 かつて家と呼ばれていたその場所に、自分を待つものも、受け入れていたものもこの世にはおらず、だが…
「戻りたいのか?」
 問われたその声に、千鶴はゆっくりと首を横に振る。
 場所を言われなくても解ってしまう。
 彼は、千鶴がかつて暮らしていた診療所ではなく…
「もう、皆はあそこには居ませんから」
「そうだな」
 かつての日々を指していた。
 皆で笑い、皆で騒ぎ、決して…安全とは言いがたく、移り変わる時代の中で、それに馴染めず足掻いた人たちの下へは戻れないのだと解っていたし、納得もしていた。
 けれど…
 腰に回された腕。
 髪に触れた相手の顎先。
 着物のせいだけではなく、暖かくなる背中。
 千鶴と同じく海面を見ているのだろう。
 閉じられた唇。
 本来ならば、彼も、あそこで共に戦っていたはずで…
 彼は、自分を選んではくれたけど、それでも、その場所に想いを馳せるなというのも無理な話で。
「戻りたいですか?」
「ん?」
 今度は逆に千鶴の方から聞いてみた。
 答えなど聞かなくても解っている。
 答えは『否』
 あの時…千鶴を選んだ時に彼は言ってくれたから。それを疑うつもりもないけれど…
「いや」
「そう…ですか」
「不満か?」
「え?」
 予想外に続いたその単語に、千鶴は思わず視線を上げる。
 不満なわけがない。
 不満であるはずが無い。
 共に戦わなくても良いのかと、それは何度も問いかけてみた事だったけれど、彼がそんな事を言うのは初めてで。
「結構前から思っちゃいたんだけどな」
「左之助さん?」
 腰に回された腕の力が強められ、千鶴と眼差しを合わすためなのだろう。僅かに傾いだ相手の頭。
「俺はお前に惚れているし、お前を選ぶために他の全てを捨てる覚悟くらいはある」
「知って…ます」
「あぁ。後悔もたくさんする。こんなはずじゃ無ぇって思う事だってあるだろうな」
「解ってます」
 それは、かつて千鶴が彼から告げられた言葉で…けど…
「お前は俺を優しいって言うけどな…」
「左之助さん?」
 腰に回されていた腕が上へと上がり、背後から頬に触れられる。
 長い指先のみが目尻を擦り、骨ばった親指は唇へ。
 視界に入る眼差しが、ことさらゆっくりと細まるのを、千鶴は瞬きすらせずに見つめ続け…
「俺はお前が思う以上に、お前に、雪村千鶴に惚れていて…」
「…っ」
「だから…なんだろうな。お前にも、俺以外を捨てさせちまった。ダチも、故郷も…それでも、お前を手放すなんて事は考えちゃ居ねぇんだよ」

 酷ぇ男だろ?

いつもと変わらぬ優しい眼差しで。
 いつもと変わらぬ優しい声音で。
 いつもと変わらぬ優しい優しい腕で。
 いつもと変わらぬ優しい体温で。

 それが怖いと思ってしまう事も確かにあって、でも、それは…

 相手の瞳を真っ直ぐ見つめ。触れる手のひらに頬を摺り寄せ。体の向きを変えるように身を捩り、抱き合うように両手を回す。

 怖い。怖かった。そして、これからも恐れ続ける。でも、それは相手にではないのだとようやく気付く。
 本当は…本当に、怖かったもの。それは…

「左之助さん」
「ん?」
「私のために、これからも、捨て続けてくれますか?」
 貪欲に、どこまでも貪欲に求め続け、自分を選ばせ続けようとする己自身。
 好きだから。愛しているから。欲しいから。
 奪いつくし、喰らいつくし、やがて…
「答えは…聞くまでもねぇだろ?」

 触れる唇。
 交わす眼差し。
 絡み合う視線の果に…

 透明な檻に見せかけた、甘やかな時に捕らわれた。


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あとがき。

このお話も、以前と同様に、三馬鹿アンソロ様用の原稿だったりします。このお話しと、アンソロへと載せていただいた作品を提出し、二作品とも…というありがたいお言葉に、ただでさえ豪華メンバー様なのに2作品もなんて無理ですぅぅぅと泣きを入れ、ボツにした方の原稿だったりします。
以前書いた作品とイメージがダブルのは、同じイメージで書いたものだったりするわけですが…
このお話のベースは以前書いた土方さんSSだったりします。過去を振り返らない。後悔はしても戻りたいとは思わない。それが、共通した思いであり、けれど、そこからが、それぞれの生き様と言うか考えの違いによって取る行動が変わって来るんじゃないかなとか思ったり思わなかったり。
何が書きたかったのかと言えば、罪悪感を感じる千鶴。あと、左之自身の艶を含んだ色気が出せたら…なぁ


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