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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

痛みが快感にいたるまで。(緋色:拓磨×珠紀)

2010-06-04-Fri-12:02




【痛みが快感にいたるまで。】


(緋色の欠片:拓磨×珠紀)








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 衝動。
 衝撃。
 打撃。
 動揺。

 【ショック】
その言葉の類義語を並べたとするならば、この四つの単語が出てくるだろう。
 その中でも、【動揺】、この単語こそが今の己の現状に似つかわしいのではないのだろうか…と、拓磨は思う。



 色鮮やかな赤の時雨は大地に落ちて、代わりに色の薄い青空と、灰色の雲。白い雪が降る季節が訪れた。
 吐き出す息は、昼の最中では目立つことは無いけれど、朝と夕方には大気を白く染めて消え、同時に痛みを伴う寒さが肌を撫でる。
 秋の、世界の命運をかけた一件など無かったかのように訪れた…いや、無かったかのように取り繕われて訪れた、少女と過ごす初めての冬は、正直なところ、拓磨を浮かれさすには十分すぎて…

「…悪かった」

 だから…なのだろう。

『なぁ。珠紀の様子、何か変じゃ無ェか?』

 本来ならば、一番最初に気づかなければならない少女の変化に。

『へ?そースか?…いつもと何も変わって無いように見えますけど』

 自分だけが、気づかなかった。

 自己嫌悪。

 己の心情を表すのならば、その一言で十分で…
「珠紀」
 目の前で、水の入った洗面器を枕元に置き、布団に包まり苦しそうな少女の横に座って見下ろしながら、拓磨は小さく名を呼んだ。

 場所は、宇賀谷家。
 屋敷とすら呼んで良いこの家は、いくつもの客間と住民の個室から成っている。その中でも、決して大きいとも、豪華とも言えない和室の一つが、この家の主でもある春日珠紀の部屋だった。
 今時の女子高生の部屋にしては飾り気の無いその部屋は、良く言えば和風アンティーク調な。悪く言えば、古めかしく。
恋人同士になってからも何度かこの部屋に入った事はありはしたが、その様相が変わる事は無かった。
 拓磨が、いくら『女らしく無い部屋だ』と言っても…だ。
 別に拓磨とて、レースフリフリな少女趣味な部屋に模様替えをして欲しかったわけではない。ただ単に、珠紀との会話を広げるきっかけとして言っていたにすぎないのだが…
「……っ」
「珠紀っ!?」
 布団の擦れる音。
 緩慢な動きで瞬く少女の眼差し。
 こんな時、せめて暖房器具くらいは入れろと、強く言っておかなかった自分が悔やまれる。
 会話のきっかけなどではなく。
 少女の事を考えて。
 それほどに、この部屋は…
「た…くま?」
「………」
 熱を出した病人を置いておくには、万全とは言い難かった。

『いや、絶対ェおかしいって。…ぉい。珠紀…っ!珠紀っ!?』

 あの時…
 屋上での昼食時。
 寒空の下、皆で弁当を広げ、他愛ない話しを交わしていた。
 付き合っている自分よりも、仲良く見える真弘と珠紀の姿に歯噛みをし、けれど、そんな自分の心の狭さを悟られまいと、何でも無い事のように取り繕って。
 拓磨とて、授業中、珠紀の様子がおかしい事にくらいは気がついていたのだ。
 大丈夫かと声もかけはした。けれど、決まって、笑みと『平気』の単語に阻まれて。
 ……いや………
「ど…ぅして、拓磨…が?」
 紡がれる音に瞳を伏せて、拓磨は小さく息を吐く。
「覚えてないのか?お前、熱出して倒れたんだぞ」
「う…そ」
「…風邪だとよ。ちなみに、病院に行くのを拒んだのもお前だ」
 なんでもないだろうと、『平気』を『大丈夫』にすりかえた。
 共に居る事の出来る現状に油断したのだ。
 気づけるはずだった。
 以前の自分なら。
 けれど、気づけなかった。
 今の自分には。
「…迷惑、かけちゃったね。ごめんね」
 冷えた室内の空気に反して、熱のためなのだろう。汗の浮かぶ少女の額。
 ただ、寝ているだけでも苦しいだろうに、その口元には笑みすら浮かんでいて…
「謝るな」
「…でも」
「………何か、食いたいものはあるか?だいたい、寒いだろ。やっぱり、居間に…」
「やだ」
「あのなぁ」
「……やだ」
 居間にならば炬燵がある。エアコンなどというハイテク機器は無いにしても、ストーブくらいは置いてある。拓磨とて、最初はそこに寝かせようとしたのだ。なのに…
「広すぎて、やだ」
 屋上で倒れて、珠紀を宇賀谷家に運んで、少女は熱にうかされて覚えていないのだけれど、拓磨に背負られながら、小さく…本当に小さく、少女はそう告げたのだ。
 その言葉に逆らう事などできるだろうか。
 答えは…
「俺が居ても…か?」
「拓磨?」
「…いや、何でもない」
 出来るはずなど、無かった。
 ガタガタと音を立てる部屋の窓。
 何度も瞬く相手の瞳。
 言葉は、無い。
 お互い発する事などできなかった。
 少女は具合が悪いため。
 自分は…
「側に、居て…ね?」
 聞き間違いかと、思った。
 でなければ…
「どこにも行かないでね」
 掠れた声。
 これは、自分が相手に望まれて欲しいと思うがゆえの幻聴なのだと、そう、思った。
 けれど…
 伸ばされた手。
 制服の袖を掴まれた。
 拓磨を見上げる少女の表情はどこまで真剣で。
 まるで、拓磨の言葉を待つように閉じられた唇は、僅かに震えていた。
 人は病気をすると、心細くなるらしい。
 怪我はしょっちゅうしたものの、風邪や病気関係には滅多にかからない自分には、あまり馴染みの無いその感覚は、それでも…
「ここに居る」
 袖を握る指を外すように、己の指を少女に絡め。
 己の存在を確かめるように、熱い手のひらに手のひらを重ねた。

 自分がどうしようも無いほどの馬鹿なんだって事は解っていた。
 自分にとって少女は全てなのだという事も解っていた。
 だからこそ落ち込み、自己嫌悪に苛まれ、自分が望むほどに少女にも望まれたいと、そう、思い。
 だが…
「………」
「…ぁー…その、解った」
 発さぬ少女の声に瞳を細め。
「………」
「嘘なんかじゃない」
 僅かな表情の変化に息を吐く。
「………」
「本当だ」
 言葉は、聞こえない。
 音も、聞こえない。
 それでも…
「………」
「だから…なんだ。お前、目、瞑ってろ」
 ゆっくりと閉じられる少女の瞳。
 僅かに頬を彩る紅い色は、熱のせいなのか…それとも…
 腰を曲げ、そぅと頭を近づける。
「キス…だろ」
 ゆっくり上がる少女の口角に、拓磨は間違っていなかったのだと安堵した。
 もし、間違っていたのなら…
「どんだけ欲求不満なんだ。俺はって話しだな」
「?」
「いや、何でもない。いいから。お前は目、瞑ってろ」
 そっと触れる唇。
 僅かに毀れた熱い息。
 同時に吸い込まれるように眠りに落ちた少女の気配に、拓磨はそっと顔を離す。

 自分ばかりが空回りいているのだと、そう、思っていた。
 自分ばかりが不安なのだとも、思っていた。

 けれど、本当は、少女も不安で戸惑っていて、些細な事で自己嫌悪を繰り返し。
 だからこそ…

「珠紀」

 愛しい思いを込めて名を呼んで、眠る少女を起こさぬように、布団ごと、その体を抱き上げる。
 この部屋は、確かに少女の馴染みの部屋で、ここに居れば安心する事もできるのだろう。けれど…

 耳に届く…これは、玄関の扉が開く音。
 病人が居るにもかかわらず、遠慮も何も無い騒がしい足音。
 話し声。
 窘める声。

 もう、寂しいだなんて思わせない。

 二人だけ。小さな箱庭が良いなんて思わせる事はしない。
 正直、未だ少女に近づく男に対して余裕の笑みなんてものは出来そうにないけれど、それでも…
「…先輩。病人いるンすから、少し静かにしてくれませんか?」
 大切なものは唯一つ。
 自分の思いなんてものが、その邪魔になるのなら、犬にでもくれてやった方がマシな話しで。

 腕の中では穏やかな寝息。
 僅かに上がっている口角は、きっと良い夢を見ているのだろう。
 騒がしくて、煩くて。
 そのくせ…




 大事な誰かを作るという事は、優しい痛みに苛まれる事であるのだと、ようやく拓磨は気がついた。




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あとがき。

拓磨は、Mだと思うんですよ。珠紀に振り回されるのが好きで。たまに見せる我侭が可愛くて、「仕方ねぇなぁ」みたいな感じでかなえてやりたくなる。でも、成長するにしたがって、かなえるだけじゃなく、他の方向にも持っていく事が出来る、大人の男に成長できる存在だとも思うのです。
そんな姿を書きたかったんですが、文才がそれに追いつかない。頑張ります。
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