fc2ブログ

朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

散る華。(薄桜鬼:山南×千鶴)

2010-09-10-Fri-13:20




【散る華。】


(薄桜鬼:山南×千鶴)








======================



 何故、こんな事を思うのだろう。
 何故、こんな事をしようとしているのだろう。
 幾つもの疑問が頭に浮かび、だが、それに答えを出せぬまま、千鶴は廊下を歩いていた。
 冷えた外気は室内にもかかわらず、吐き出す息を白くさせ、足袋を吐いていない足は床の冷たさに痺れるような痛みを訴えていた。
 草木も眠る。丑三つ時。
 いつもの千鶴であるならば、その時間は布団に入り、夢の世界に旅立っているはずで。
 だが…
「………」
 進んでいた足が、ぴたりと止まる。
 締め切られた雨戸の反対側。
 左手に並ぶ幾つもの障子。
 そのどれにも、障子の向こう側からの灯りは透けていなかった。
 時があまりにも遅いためか。
 否。
 ならば、そこに誰も存在していないためなのか。
 否。
 新選組の隊士ですら一部の者しか知らない閉ざされた場所。
 死人達の屋敷。
 そこに己以外の影は見えなくとも、障子の向こう側から蠢く気配が感じられる。
 逃げろと頭の片隅で瞬く警報。
 それは、この世界に生きるものとして正しい本能。
 正直、千鶴とて肝を据えてここに来なければ、今すぐにでも踵を返して逃げ出しただろう。それほどの、恐怖。
 だが、千鶴の足はそこから動かず、むしろ…
「山南さん」
 その主を呼ぶかのように、言葉を、紡いだ。


『山南さんは、血に狂い始めているのかもしれない』


 そう告げたのは、一体誰であったのか。
 少なくとも、幹部の誰かであったように千鶴は記憶をしていた。

 その日は透き通るような青空で。小春日和…と、まさしくその言葉が当てはまるほどに、温かな風が、干した洗濯物を揺らしていた。
 その一角。閉め切られた障子と襖。
 外界と隔たられ、漂うのは重苦しい空気。
 内情を知る千鶴は幹部のみの会合であっても、こと、羅刹に関して話し合われる時のみ、同席を許されていた。
 巷ではびこる辻斬りの噂。その手口はあまりにもおぞましく、まさに『鬼』や『物の怪』の類がしたのではないかと疑われるほど。調べていけば、確かにソレは『人ならざる物』の仕業ではあったのだ。
 かと言って、山南であると決まったわけではないのだけれど。
 その時は、山南の動向を探るという方向で話は終わったわけなのだが。


「山南さん」
 再度紡いだその音に、カタリ…と、閉ざされた障子が僅かに揺れる。

 何故、こんな事をしているのか。
 何故、こんな事を思うのか。

 状況からして、ソレをしたのは紛れもなく『羅刹』と呼ばれる、人では無くなった可哀相な存在が起こした事で。それを束ねる立場に居る山南がそれに関わっているだろう事は明白だろう。
 あの人が自分の部下達…例え羅刹であったとしても…の行動を把握出来ていないとは考え難い。
 ならば、自分がここでこんな事をしているのは無駄なのかもしれない。
 それでも…

 千鶴の目の前でゆっくりと障子が開いていく。
 その隙間の向こう側に在るのは闇。
 そして…
「おや。これは随分と珍しいお客様ですね」
 張り付いたような笑み。だが、決して笑ってはいない眼差しを向けられながら、千鶴は唾を飲み込んだ。

 千鶴は、一つ。賭けをした。
 誰かと…ではない。
 自分とだ。
 状況が彼を指し。
 彼でないという証拠を探す方が難しい。
 それでも…
「雪村君?」
 問われる音に拳を握る。
 これは、そうあれば良いと思う願い…なのだろうか。
 己自身に問い、瞬く事で否定する。
 違う。
 そんなあやふやなものではない。
 羅刹化する彼を見た。
 血を求める彼を見た。
 でも…
「山南さん。私を…」
 顔を上げる。
 息を吸う。
 煩いくらいに音をたてる心臓に、声が震えぬよう注意して。
「私の…」
 硝子越しに見える眼差しは、やはり笑みを浮かべてはいないのだけど。

「私の血を、使ってください」

 その眼差しが驚きに開くのを、千鶴はどこか安心したように見つめていた。

 そう。自分は賭けをした。
 賭けに至った理由はただ一つ。


『私は、大人ですから…』


 あの瞬間の表情を。
 腕を伸ばしながらも、それ以上、決して近寄っては来ない行動を。
 千鶴を襲った事実がありながらも、何故、今も千鶴は無事であるのか。

 幹部の皆が山南を牽制していたため。
 それもあるのだろう。
 けれど、それだけとは思えなかった。
 求めながらも求めず。
 狂いながらも狂わず。
 それが彼の本質であるのなら。
「雪村君?」
 相手は変わらず開かれた障子の向こう側。
 闇に支配されたその部屋で。けれど、白い指先のみが千鶴に伸びる。
 先ほどの驚きはすぐに瞳から消え、変わりに不可思議な色がその眼差しに宿っていた。
 何を考えているのか。
 正直、千鶴には解らない。けれど、恐怖は感じなかった。
「本気ですか?」
 問われる声に、頷きを。
 冷たい指先が、頬へと触れた。
「本気です」
「誰かに探ってこいと…そう、言われましたか?」
「私の意志です」
「……それはそれは」
 笑み交じりの声。
 指先は、千鶴の目尻を擦り、頬の丸み。顎の先へと落ちていく。
 顎の裏の柔らかい箇所。
 そして…
「っ!!」
 掴まれる首。
 息が出来ないわけではない。それでも圧迫感からか自然と足は逃れようと後ろに下がる。
 怒っている。
 いや、苛ついているのだろうか。
 決してこちら側には出てこない彼の足は、やはり、そこから一歩も進まず。
 かと言って、逃れようとする千鶴を留めようとはせずに、あっさりと首から離れた相手の指先。
 開いた距離。
 見えなくなるその眼差し。
 唯一解るのは、最初と変わらずに張り付いた。彼の口元の笑みだけで。
「さんな…」
「いずれ…いずれ、貴女の血はいただきましょう」
 言葉をさえぎるかのように告げられた言葉。
 近づけぬ距離。
 近づかぬように引かれた線。
 言葉でこそ、千鶴を求め。
 けれど…
「今は、部屋へ。彼等の元へ、お帰りなさい」
 閉ざされた障子に、拒絶されたのだと自覚する。
 ある意味、自分は賭けに勝ったのだ。
 彼は、血に狂っておらず。
 彼は、羅刹に取り付かれてはいない。
 それなのに…

 再び体を襲う寒さに、千鶴は己自身の体を抱きしめた。
 今頃恐ろしくなったのか。
 違う。
 確かめたいという建前で。
 賭けという理由を使い。
 けれど、本当は…

 足元で軋む床。
 離れていく閉ざされた障子。
 戻り行く生者の世界。
 掴まれた首のみが、いやに熱を持っていた。
 その指先は、とても冷えていたにもかかわらず。

「山南…さん」

 この想いを何と呼べばいいのか、自分は知らない。
 名前をつけていいものかすら、自分は、知らない。
 それでも…
 それでも、一瞬…
 賭けとしてではなく。本気で、あの瞬間。
 彼が必要とするならば、自分の血など要らないと。
 その結果、何が起ころうとも彼の役に立てるならと…
 そう、思ってしまった自分自身が恐ろしかった。




=========================-
あとがき。

このお話しは、オフ本の書下ろしとして書いてはみたものの、どうしても納得いかずにオフからは外しました。
気持ち的には、新選組以外の事を切り捨てられると思っていたはずなのに、切り捨てられないものが存在していた事に気付いてしまった山南さんの苛立ちが書けたらよかったのですが、力不足。
スポンサーサイト



COMMENT



神無さまへ。

2010-09-21-Tue-07:06
神無さま、こんにちは。おはようございますっ!
お返事が遅くなってしまって申し訳ありません。
今回も、山千SS読んでくださって本当にありがとうございます。
山南さん好きーな方、少ないですよね(涙)私も、あまりの少なさに絶望していたのですが、このブログを通じて、神無さまとめぐり合う事が出来て本当に嬉しいですっ!ありがとうございますっ!
山南さんは、優しいけれど、同時に厳しさ(自分に対して特に)を持っている人なんですよね。
土方さんとはまた違った潔さがたまりませんっ!もっと、山南さんの人気が出れば良いのにと本気で思っております。
…て、WEBラジオですかっ!?き…聞きそびれま…した(がくり)
なんてことっ!飛田さんがゲストとはっ!まだやってますかね。今からググってきたいと思います。
神無さまはゲーム機はお持ちでないのですね。ストーリーブックでも、間違いなく山南さんの格好良さや優しさは伝わると思いますので、ぜひともっ!山南事件想起をっ!!
と、大プッシュしつつこの辺で失礼いたします。
コメント、本当にありがとうございましたーっ!

管理人のみ閲覧できます

2010-09-10-Fri-22:52
このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

HOME