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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

視線ひとつで死ねるこの幸せを知るまい(夏空のモノローグ)

2011-01-19-Wed-22:14



【視線ひとつで死ねるこの幸せを知るまい】

夏空のモノローグ カガハル×葵

※このお話しは、夏空のモノローグ 絵文企画 12月16日 様に提出した作品であります。
12月16日様へは、→コチラから。素敵作品が大量にあります。






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例えば、今、この瞬間に世界が終わりを迎えたとしよう。
冬独特の透き通るような…今にも白い雲と一体化しそうなほどに透明な空を見上げながら、キコキコ音を奏でるブランコに座り、カガハルはそんな事を考えていた。






遠い異国から我が祖国日本へ。
祖父と同じくらいの年齢の…けれど、祖父よりも数倍。いやさ、数十倍は恐ろしい絵の師匠の許可が下り、数時間とはいえ日本に帰国する事を許されたのは、十数時間前のことである。
日頃の行いの良さからか、はたまたカガハルの才能のたまものか…は違うとしても、師匠がカガハルに時間を与える事は珍しく、しかも、日本に…繰り返すようだが、本当に数時間だけ帰ってはどうかと言った際には、雪を通り越して槍やおたまじゃくしでも降るのではないかと思ったくらいだ。もちろん、家族に連絡するよりも先に、財布とパスポートだけを持って飛行機に飛び乗ったのは言うまでもない。
逢いたいのはたった一人。言葉を交わしたいのもたった一人。両親には本当に申し訳ないと思うものの、それでも、数時間だけでも逢いたいと思ってしまうのだ。しまうのだ…が…
「先輩が来ませんかねぇ」
キコキコ音を立てる古びたブランコ。頭上の青空は変わることはなく、けれど、明らかにカガハルが、この場所…思い出の公園に訪れた時よりも太陽の位置は傾いていた。
伸びる影。
見晴らしの良い景色の向こう側に、真っ直ぐと空に向って伸びるツリーが見えた。
ただでさえ季節柄、下がっていく外気。
悲しいことに、自分が立てる音以外は何も聞こえず、ただただ足元の影は伸びていく。
「………」
急いでいた。
とても、急いでいたのだ。
借りているアパートに寄る事もなく、本当に持っているもの財布とパスポートだけをひっつかみ。
財布と、パスポート、だけ、を。
財布と、パスポート…
財布と…
「……いや、馬鹿だってのは気づいていますけどねー」
つまりはそう、携帯という文明の利器をカガハルは見事に忘れてきてしまったわけである。
 いや、それでも携帯番号が解っていれば…と公衆電話に向かいはしたが、海外のお金では両替出来ず、それも断念した。
ならば校門前で待ち伏せすれば…と校門前で待つものの、校内に人気はなく、よくよく考えてみれば日曜だった。次に考えたのが、少女の家である。…だが、やはり考えてみたところ、家の場所を知らなかった。
そうして今にいたるわけなのだが…
公園の時計へと視線を向ければ、帰りの飛行機の時間は刻々と迫っている。
戻るならば、そろそろここを去らなければならないわけで。
「………」
手のひらへと視線を落とす。傾いた太陽が、手のひらに尚も濃い影を落としていた。
逢いたかった。
ただただ、逢いたかった。
ホームシックではなく、まさしく、葵シックである。
メールだけでは足りず。電話だけでも足りず。大丈夫だと告げるその声に、自分こそが逢いたいのだと何度も告げそうになっていた。
自分で選んだ道にかかわらず、くじけそうになっていた…だなんてこと、格好悪くて言えはしないけれど、逢うことだけを考えていた。
それが絵にも出ていたのだろう。師匠に何度も怒られて…
動く時計の長針。
ブランコの鎖がひと際大きな音を立てた。
眼に痛いオレンジが視界に入る。それでも、この場に残る事はせずにカガハルの足は前へと動く。
前へ
前へ
前へ
前へ
ま…
小さな影が動いていた。
高台にある公園のベンチの前は、ひと際視界が開けていて。
空へと延びるツリーがよく見えて。
けれど、そこから少し視線を落とせば、いくつもの車道が目に入る。
犬の散歩をしながら歩く主婦。
仕事帰りのサラリーマン。
畑作業の帰りだろうか、ゆっくり動く軽トラック。
決してそれらは多いとは言えないけれど、確かにそこに存在していて。
その中に、見過ごしてしまいそうなほどに溶け込んでいるその影は…
その影はこちらを見ない。
その影からはカガハルは見えない。
けれど、カガハルはその影に気づき、その存在に気づき。


「よ…かったぁ」


小さく小さく息を吐き、カガハルは、ほぅと息を落とす。
気付かれなくて良かった。
逢わなくて良かった。
連絡する事が出来なくて良かった。


だって、今、少女に気付かれ見られ、声などかけられたりしたものならば…


「俺、間違いなく死んじゃいますよ。先輩」


笑みとともに呟いた。






カガハルは考えた。
歩きながら考えた。
飛行機に乗りつつ考えた。




例えば、今、この瞬間に世界が終わりを迎えたとしよう。




そしたら、きっと、自分は
今、この瞬間。世界で一番幸せなのだと自信を持って言えるに違いない。



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あとがき。

そんなわけで、素敵夏空企画さまへ提出した作品となります。実は、企画に提出した際に、誤字が一箇所見つかって…しかも、最後の部分で、「ちょ、ここでかーっ!!」と恥ずかしい思いもしたわけですが、今はちゃんと直しております(笑)
さて、今回の作品ですが…このお題を見た瞬間、他の誰でもなくカガハルが思い浮かびました。夏空の良いところは、人として成長していく過程がとても丁寧に書かれているところじゃないかと思います。
あの雰囲気を伝えるのは難しいですが、少しでも夏空への愛が伝われば良いなぁと。






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