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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

13 見返りを求めない言葉 (緋色の欠片:遼×珠紀)

2011-05-05-Thu-00:34
13 見返りを求めない言葉

(緋色の欠片:遼×珠紀)


■このお話しは、企画サイト様。【愛シ記憶】様へと提出させていただいた作品だったりします。
企画の概要については、→【愛シ記憶】企画サイト様に掲示しておりますが、少しでも、皆様に笑顔を。
そして、幸せな気持ちになっていただけるよう。願いながら書かせていただきました。
尚、企画サイト様にお邪魔する際には、ご迷惑にならないよう、ルールを守るようお願いいたします。




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 時は夕暮れ。
 耳に届く蝉しぐれ。
 今の時刻を知らせるように、ちりんちりんと音を奏でる風鈴は、日中よりも明らかに大きく横に揺れていた。
 肌を撫でる風に、僅かばかりの熱気が残り、火照った体を冷やしていく。
「…おい」
 真横に開かれた飾り気のない障子と障子。
 その中央に立ちながら、遼は室内…いや、室内に居るはずの少女へと声をかけた。
 しぶしぶながらの受験勉強。
 遼と二人では危険だと全力で訴えていた美鶴を、危険な目にあったら呼ぶという約束でこの場から去らせ、二人きりの時を手に入れた。
 触れたのは数回。
 口説いたのも数回。
 けれど、頑として勉強を譲らなかった珠紀に根負けしたのは遼が先で。
 …いや、二人きりの穏やかな時も、悪くはないと、解っていたから。
 ゆっくりと山の向こうに消えていく太陽。
 目では確認できぬほどの緩やかな時間。
 それでも、確実に一歩一歩夜へと近づくソレは外どころか、室内の影も増していく。
 席を立ったのは数分前。
 さして時は経ってはいない。
 それなのに、濃くなる闇。答えのない声に。
「珠紀」
 一瞬、この場に居ないのかもしれないと思ってしまった。
 硬くなる声。とたんに、早くなる鼓動。
 それが何故なのか…は、遼自身気が付いていた。
 これは、恐怖…だ。
 何が起きたわけじゃない。
 ただ、少女の存在を見失った。それだけで。
 赤の瞳を巡らせて、濃くなる影の向こうを見やる。
 中央には机が一つ。
 机を挟み、座布団が三つ。
 机の上には、麦茶が半分ほどのグラスが残され、それが、遼がこの部屋から出た時から変わっていない事を確認する。

 ミシリ

 踏み出した途端に音を立てる畳。
 やはり、赤い瞳に机の向うは映らず、焦ったように瞬いて。
「……っ」
 踵を返しかけた所で気が付いた。
 瞼を閉じ。
 耳を澄まし。
「………おい」
 再度紡ぐ声に応えはなく。けれど…

 みしり

 更に、畳が音を立てた。
 見失ったのは一瞬で。
 疑ったのも、一瞬で。

 ミシリ みしり ミシリ みしり

 進む足は歩みを止めず、ようやく見えたその姿を瞳に移す。
 投げ出された両足。
 見えていなかった座布団の最後の一つを枕にし、心地よさそうな寝息と幸せそうな寝顔。
 恐れる闇に身を委ね。
 完全に寝に入っているその態勢は、明らかに遼がこの部屋から出て行った後、本能のままに寝たことを示していて。
「……珠紀」
 囁くように名を呼んで。
 しゃがみ込むと、おそるおそる指を伸ばす。
 茶色の髪。
 白い頬。
 閉じられた瞼の淵。
 鼻先。
 唇。
 肌を撫でる、吐息。
 とたんに体から抜けた力。
 普段の遼を知るものならば、想像もつかないだろう、情けない姿の今の自分。
 だが…
「………珠紀」
 その音しか知らぬように言葉を紡ぐ。
 触れるのも、抱きしめるのも、口づけを交わすのも、少女を求め、閉じ込める事すらも。
「…遼?」
「………」
 余裕のある姿で余裕の無い己自身を誤魔化して。
「誘っているのか?」
 上滑りする言葉。
 伸ばされた少女の手は遼の頭をぽむりと叩き。
「寝ちゃって、ごめんね?」
「………」
 紡がれた音に、相手を、強く、抱きしめた。

「…珠紀」




 もし、もしもだが。
 突然一つの単語しか、告げる事が出来なくなったとしたならば。
「………」
 自分は少女と出会ったその時に、既に言葉を決めていた。


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あとがき。

最初は「ありがとう」にしようかと思ったんです。見返りを求めない言葉=感謝の言葉かな。と。でも、敢えて【言葉】ではなく、「名前」にしてしまいました。
相手の「名前」を呼ぶとき、色々な意味がこもっている時が、相手の名を呼んだ時ではないかと。見返りを求めない言葉とは…違うかな。(悩)
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