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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

夢幻泡影。(緋色の欠片 蒼黒の楔FD発売記念SS)

2012-05-31-Thu-00:00




【夢幻泡影】


遼×珠紀



緋色の欠片 蒼黒の楔FD 発売記念企画 緋色の森に提出させていただきました。







 酷く、嫌な、臭いが、した。



 抜けるような青空を、真二つに分けるように立ち上る白い煙。
 周囲には、何もない。
 緑の丈の短い草が、己の足元に生えているだけだ。
 …いや、視界に入る範囲で言えば、それは決して正しくは無い。
 そこに立つ狗谷遼という存在の周囲五百メートル四方には、確かに何もないのだけれど、そこから僅か顔を上げて視線を正面へと向けてみれば、黒い建物が目に入るのだから。
「酷い、臭いだ」
 奥歯を噛み、唸るように遼は告げる。
 その臭いの元がどこからなのかは、とうに理解をしており。
 何故、香っているのかも理解していた。
 だが。
「それは、君が見捨てたからだろう?」
 己一人かと思っていた場所に、音もなく現れる人影。
「芦屋…」
 呟く声に、隣からの声は笑みを含む。
「あれが何か君は理解していて、けれど、君は助けなかったじゃないか」
「…俺には」
「関係ない…かい?」
 くつくつくつと笑みが聞こえる。
 けれど、決して視線を横に向ける事はしなかった。
 見つめる先は一つだけ。
 意識を向ける先も一つだけ。
 真っ直ぐに伸びた煙突。
 そこから立ち上がる煙。
 雲一つない空を跨ぐ白い線。
 離れているにもかかわらず、この場所まで香る、嫌な……人と呼ばれる存在が焼ける、その臭い。
「君が助けなかったから、あの子は死んだ」
「……」
「君は、助けられたはずだ。だが、助けなかった。助けられなかったわけじゃない。ロゴスに追い詰められ、あの子が彼らを庇い、絶体絶命なその時に、君は確かにあそこにいたからね」
 けれど、君は助けなかった。
 続く言葉に、お前も同類だろうと…言いかけて、止める。
 同類…ではなかった。
 同類で、あるはずがない。
 隣に立つこの男は、己のように立ち上がる煙を見る事はないはずだ。
 隣に立つこの男は、肉が焼ける臭いにどうしようもなく苛立つ事がないはずだ。
 そう…
「俺は…」
 苛立っていた。
 助けなかった罪悪感のせい…ではない。
 罪悪感などではない。
 それよりも、もっと。
 もっと、強く……
「おや?君…」


 泣いているのかい?


 告げられた音に、己が泣いている事を自覚した。


 ※※※


「遼?」
 音が、聞こえた。
 同時に温もり。
 嗅覚が香りを捉える。
 瞼を開けば青空。
 茶色の糸。
 いや、糸ではない。
 これは髪。
 白い指が己の頬に触れた。
 あぁ。ぬくもりはコレなのか。
 理解し、再び瞼を閉じる。

「た…まき?」
 紡いだ音は掠れていた。
「うん?」
 暖かい指先が何度も頬を撫でる。
「珠紀…か?」
「うん」
 鼻腔を擽る香りに、体から力が抜けていく。
 嫌な、夢を、見た。
「やな夢でも見てた?」
「………」
 嫌な、夢を、見た。
「屋上に来たら、寝ててびっくりしたよ?」
「…ああ」
 もしかしたら、あったかもしれない未来。
 己が手を伸ばすことの無かった先にあったかもしれない現実。
 珠紀の存在を、玉依の後継者としてしか知らなかった己は、珠紀が居なくなっても悲しむことはない。
 ただ、言い知れない苛立ちと喪失感を抱えるだけだ。
 耐えられないほどの…
「遼?」
 落ちる音に瞼を開く。
 腕を上げる。
 視界に入る少女の顔に、気づかれぬよう安堵の息を外に出し。
「目覚めの口づけは、定番…だろ?」
 いつもの姿を装って、少女の頭を引き寄せた。
 絡む吐息。
 触れる唇。
 けれど、それ以上に
「そばに、いるよ?」
 奏でる音に、安堵した。





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蒼黒の楔FD発売おめでとうございますっ!!!!!
というわけで、今回、記念企画に参加させていただきました。
最初暗くて、暗くて…どうしようかとか思ったんですが、お題を考えるとこれしか浮かびませんでした。自分のさびしい脳みそにキン○クバスターを食らわせたいくらいです。
そんなわけで、この作品は、緋色の森様への提出作品となっております。
他にもたくさんの素敵作品がございますので、ぜひぜひ、行ってみてください。
このような素敵な企画に参加させていただき、本当にありがとうございました。
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