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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

私は貴方の王子様になりたい。(緋色:真弘×珠紀)

2012-08-30-Thu-16:01




【私は貴方の王子様になりたい。】

緋色の欠片:真弘×珠紀









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 私は、貴方の王子様になりたい。

 ゆぅらりと揺らぐカーテンと共に、熱を含む風が室内に忍び込む。
 耳に届くのは、数日前から格段に減ったとはいえ、静かとは言い難い蝉の声。
 決して新しくは無いだろうに、それでも、畳の独特の香りが珠紀の鼻腔を擽った。
 四方を壁と障子。そして襖に囲まれた正方形の和室。それが今、珠紀が存在する場所だった。
「…とか書くと、まるで閉じ込められているみたいだよね」
 カリカリと動かしていたシャープペンを置き、珠紀は視線をゆっくりと上げる。
 見慣れた室内に見慣れた風景。なんの変哲もない。珠紀が良く知る宇賀谷家の一室である。
 庭に面し、且つ、裏庭からも風の入るこの部屋は、クーラーという文明の利器がなくとも、それなりに過ごしやすく、珠紀のお気に入りの部屋だった。
 夏休みの宿題をやるのはもちろんの事、昼寝や、それに…
「…………せんぱい」
 逢引。もしくは、デート。そんな相手と共に過ごすのもこの部屋で……にもかかわらず。
「………先輩」
 ため息交じりに発した音に、言葉と呼べるものは返ってこない。
 それもそのはずである。
「…んー」
 むにゃむにゃと、何やら言葉にならぬ言葉を発し、畳の上に寝そべる想い人は数十分ほど前から夢の中の住人になっていたのだから。
「一緒に勉強しましょうって言ったのに…」
 持っていたシャープペンを転がして、珠紀は中途半端になったままの宿題から目を反らす。
 恋人。鴉取真弘が高校を卒業し、一度目の夏。
 本来なら大学生と高校生という、微妙に擦れ違いな恋人同士になりそうな二人であったのだが、幸いか不幸か…いや、後者の方が正しいのだろう。高校生と浪人生という、ある意味すれ違わない関係になっていた。
 とはいえ、彼曰く、『落ちたんじゃねぇ。見送っただけだ』…らしいのだが。
「…だから、誤解されるんですよ」
 心持ち音量を下げた音は、もちろん眠る相手への配慮のためである。
 数か月前。卒業する相手を見送った際にも同じことを言われたものだが、その時には、『はいはい、そうですか』と可愛くない反応を示した事は記憶に新しい。
 その後、彼の言った事が真実であり、自分や仲間達を気遣ったからこその浪人生活だと知ったのは、夏の最中の二回目の世界の危機のせいだった。
 それがなければ冗談のような口調に真実を含ませて、それが真実だと信じ込ませたまま彼は日々を過ごしたのだろう。
 そんな所がたまらなく…
「悔しい」
 ぽつりと落とした言葉に、ごろり、眠る彼が転がった。
 起きる兆しは無い。
 

 耳に届く蝉の声。
 頬を撫でる涼しいとは言い難い風。
 目の前には、どこの家庭にでもありそうな(ただし和室に限る)背の低い机。その上には広げられたノート。転がるシャープペン。水滴を纏う、麦茶の入ったグラス。そんな机からでっぱっている長い脚。
 顔は見えない。
 だから。

 私は貴方の王子様になりたい。

 珠紀は膝をすりながら、机の向こう側。寝息を立てる相手へと近寄った。
 無理をする人で。
 なんでも黙って行動する人で。
 自己犠牲ばかりして。
 自分が心配しても心配しても無茶ばかりして。
 守らなきゃと思った。
 彼はお姫様と呼んではくれるけど。
 珠紀こそが彼を守っていきたいのだ。
 それは、ずっとずっと変わらなくて。
 ああ、今珠紀がやりたい事。やろうとしている事のいいわけなのかもしれないけれど。
「王子様になりたいとか、思っちゃったんです」
 囁きながら、横向きの相手の顔を覗き込む。
 閉じられた瞼。
 緑色の瞳は見えない。
 整った容姿は、身長のせいもあるのだろう。可愛らしい…とすら思えるもので。
「先輩」
 起こさぬように注意しながら、眠る相手の顔に己の顔を近づける。
 寝込みを襲うだなんて…と、ほんの僅かに心の声が静止をするも、けれど、誘惑には勝てなくて。
 これが、男の人が女の子にキスしたいとか、そんな風に思う気分なのかな…なんてそんな事を思いつつ。
 手のひらを相手の頭の横に。
 曲げた背を更に曲げ、吐息すら触れ合うほどに唇を尚も近づけて。

 あと数ミリ。

 言うなれば、これは眠り姫への口付けか。
 それとも…

 カタリ…と音でもしたなら気付けただろうか。
 いや、音がしたところで手遅れだろう。
 なぜならば…

「……ぉい」
 嗚呼惜しい。あと少し。
 正直、唇は触れてはいなかった。
 けれど、吐息はお互いの唇にかかっている。際どい。とても際どい。けれど。
「せ、せ、ん、ぱ?」
 寝ていたのではなかったのだろうか。
 いや、確かに寝ていたはずだ。だって、瞼は閉じていた。
 今の今まで緑色の光は見えなかった。
 それは確か。
 では何故今、聞こえるはずの無い声が聞こえ。見えるはずのない光が見えて。あまつさえ。
「せんぱっ!?」
 勢いよく体を離す。
 否。
 離そうとし…
「あのなぁ」
 逆に後頭部を掴まれた。
 先ほどまで耳に入っていた蝉の声の代わりに聞こえるのは、激しいまでに音を立てる己の鼓動。
 何故か、逃げ出したい衝動に駆られてしまうのは。
「お前が、俺の、お姫様以外になれるのか?」
 声が、掠れていた。
 やっぱり彼は寝ていたのだ。
 そして、寝ぼけているのだ。間違いない。
 シラフでこんなに甘い声を出す存在ではないはずで。
 珠紀の頭を引き寄せながら、耳元でささやくなんて高度な技が出来る存在ではないはずで。
 それ、なの、に。
「お前は俺の…姫様だよ」
 そのまま口づけをしようだなんて、そんな事…


「っ、っ!っ!!!!先輩は、私に守られていればいいんですっ!」


 嗚呼、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 窓は開けっ放し。
 ノートは開きっぱなし。
 シャープペンシルは転がしっぱなしで麦茶も飲みきってはいない。
 唇が触れたかどうかは覚えていない。
 ただ、必死で。
 そう。必死で。


 私は、貴方の、王子様になりたい。

 そう、思っていなければ。



「……………っ、先輩の馬鹿ぁ」



 解っている。本当は。
 恥ずかしいけれど。今にも穴に飛び込みたいくらいだけれど。



 私は、貴方の、お姫様に、なりたい。…です。


 零れた本音は、みぞおちに一撃くらった相手に聞こえるはずもなく…
 遅々として進まない恋人同士は、今日もまた、進まぬ一日を迎えるのだ。





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あとがき。


こんにちは。こんにちは。キーボードをようやく新しいものに買い替えて、出てきたネタを即座に書けるようになったので、早速書いてみました。やはり、今回も寸止め万歳です。でも、ちょっとは格好良い先輩(当社比)が書けたので満足。でも、次回は、もっと押せ押せ先輩も書いてみたいです。
このネタは、珠紀ちゃんて男前だよな。でも、先輩もめちゃ格好良いんだよっ!と訴えたいがために書きました。やっぱり先輩は、男前だし、格好良いし、男前なんです。そうなんです。
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