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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

とまと。

2007-04-15-Sun-02:53



「ねぇ、いいでしょ?」
「嫌だ」
「ちょっと、口開けてるだけだし」
「絶対に嫌だ」



 晴れ渡る空。
 白い雲。
 ゆっくりと頬を撫でる風は温かく、僅かに香る梅の香りは、少し早めの春を伝えている。
 屋上には二つの影。
 本来ならば、昼食時と言えば賑わうこの場所も、今日に限っては二人しか居らず、ぞんぶんに、イチャ…いや、じゃれあう二人はまさに、バカップ……幸せな恋人同士の姿そのものだった。
 一人は、赤毛の少年。拓磨。
 一人は、栗毛の少女。珠紀。
 クラス公認である二人であったが、本人達はひた隠しにしている所を見ると、この二人がいかに、初々しい青い春を送っているのかを伺わせる。
 さてこの二人、先ほどから一体何を揉めているのかというと…
「だいたい、トマトなんてものは、人間の食い物なわけないだろ。赤いんだぞ?」
「赤いっていうなら、イチゴだって赤いじゃない」
「イチゴは果物だ」
「……パプリカは」
「横文字の野菜は野菜じゃない」
 そう、珠紀が拓磨に作ってきた弁当のおかずについて、舌戦が繰り広げられていたのであった。
 そもそも、トマトは作ってきたオカズではない…というツッコミはこの際置いておこう。
 ここで重要して欲しいのは…
 拓磨が
 珠紀の
 弁当を
 食べない
 この4点である。
 今まで…そう、付き合ってから珠紀は拓磨の弁当を毎日のように作ってきた。
 時には冷やかされ、時には奪われ、それでも、赤い顔をしながらも完食してくれる拓磨の姿が見たかったからこそ、作ってきたのだ。
 それなのに……
「あと、これだけなのに…」
「……そんな目をしても駄目だ」
「……拓磨は、食べたくないんだ」
「……………………………あのなぁ」
「どうしても?」
 見上げる眼差し。
 僅かに潤んでいるように見えるのは、拓磨の気のせいではないはずだ。
 しかし…しかしである。
 差し出された弁当の中に、四つ切になったトマトの姿。
 赤い皮の中には、緑色のキョトキョトが入っており、切る時に、僅かに力を加えてしまったのだろう。
 それが、弁当の器に零れ、まるで、トマトの内臓が飛び出たかのようで…
「駄目だ」
 珠紀の目線から逃れるように拓磨は横を向くと、きっぱりと言い切った。
 ここで食べてはいけない事は、本能で理解していた。
 珠紀の事だ。
 悪気は無くとも、明日からの弁当にトマトを入れて来る事は容易く予想できて……
 しかも………
「オマエ…大蛇さんに、何か言われただろ」
「…………い、言われてないよ」
 思い切り棒読みだ。
「昨日の事だけどな。…あの人、庭の菜園でトマト収穫していたんだよ。そういや」
「…偶然だよ」
「最近、口癖のように、守護者であるからには、好き嫌いを無くさないと…とかも、言っていた気が」
 完全に反らされた眼差し。
 ひゅるり…と、風が一陣、二人の間を通り過ぎた。
「っ、大蛇さんの言っている事は間違いないじゃない」
「俺よりも、大蛇さんの言う事を信じるのか?」
「うん」
「一言かよ」
「いいじゃない。ほら、あーんってしてあげるから」
「絶対にっ、い・や・だ」
 フェンスにあたる背。
 必死に顔を横に反らし、両手は相手の手首を掴む。
 押し返そうと思えば、きっと押し戻せる。
 相手は一人の少女だ。
 女子プロを目指しているわけでもなく、自分たちのように、カミの力が中に入っているわけでもなく…
 どこにでも居る、一人の少女。
 けれど、拓磨は少女を押し戻す事は出来ない。
 押し戻し、倒れてケガでもしてしまったら…と、思うと、全力で抵抗出来ないのだ。
 ならば、己のする事は…
「……珠紀、いい加減諦めろ」
「……………」
 緊迫する空気。
 少女の声は無い。
 だが、掴んでいる手首には相変わらず力が入っており…
「珠紀?」
 瞳のみを相手に向ける……が見えない。
 顔を1ミリ程横にずらすも……やはり、見えない。
「どうし………」
 油断していたのもあったのかもしれない。
 何せ、両手は自分が持っている。
 どんな手を使った所で、手が三本になるはずもなく……
「…っ」
 唇に触れる冷たい感触。
 瞳に映る、少女の栗色の髪。
 顔を正面にした瞬間に訪れた出来事に、思考は停止。
 一秒…二秒…三秒………
 ツルンと、口の中に広がる…すっぱい様な…なんとも言えないこの味は……
「たっ…」
 吐き出そうとする口を、尚も唇で抑えられ、しかも舌で物体を押されれば…


 ゴクリ


 不自然に大きく上下する喉。
 力の抜けた指先。
「た、食べないのが悪いんだからねっ」
 離れた熱に、しばし呆然。
 瞬きする事すら忘れた。
 息をする事すら忘れた。
 かろうじて、瞳に入った情報は、真っ赤な顔をした少女の頬と………
 遠くに響く、昼食終了の鐘の音。

 立ち上がり、弁当を掴んで去っていく少女の後ろ姿を見送りながら、のろのろとした手のひらで、唇を覆い………
「まじ…かよ」
 ぽつり呟いた言葉と共に、頬に集まる熱。
 ずるずるとフェンスに寄りかかり、項垂れ、足元を見つめる。
 自覚してから逸る鼓動。
 何をした?
 問いかけてはみるものの、答えは勿論帰っては来ない。
 ただ、唇の柔らかさと、口内に残る、トマトの味に、曲げた膝に腕を置き、肩を落としてため息一つ。
「反則だろ?」
 もちろん、本日の授業は遅刻。
 そもそも、下校までに復活できるかどうかはさらさら不明で…………………


 赤い赤いトマトの色に、その後、尚更、拓磨がトマトを食べられなくなったなんて、その時の珠紀には知る由も無い。






 一方…

 給水棟の更に上。
 ぶら下がる紺色のズボンと白い上履き。
 息すら潜め、その様子を見守るもの、一名。
「ガキかよ。アイツら」
 その人物にだけは言われたくないと、きっと思われるだろう事も知らず、呟く少年。
「ま、いーもん見たな」
 呟くと同時に、その人物の口角が上がる。
 人の悪そうな…笑み。
 それは決して錯覚などではないはずで…

 その後、拓磨が一番見られてはいけない人物に見られたと知るのは、僅か、五分後の事である。

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あとがき。
最近、真珠よりも他の守護者とのカップリングが多い気が…(汗)
と、ともかくっ、拓珠です。や、初々しいですねー。
このネタは、某ファンブックに乗っているキャラ紹介に、拓磨の苦手なものがトマトと聞いて、思いついてしまったネタです。
真弘先輩ではダメなんですよ。これはっ!先輩だと…むしろ、嫌いでも、目と鼻摘んで食べそうなので…
拓磨は、何度も嫌がって、けれど、けれど、最後にはようやく食べて…みたいな感じじゃないかと思うので…大抵、そこに行くまでに珠紀がじれると、いいなぁと…
すみません。かなり書くのが楽しかったです。
ラブラブ…や、ラブラブよりも、シリアス書くのが楽なんですけど、でも、たまに書くと…どうも止まりませんね。ハイ。
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