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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

終章-1

2007-04-26-Thu-00:44
「ただいま」
 開いた扉と同時に伸ばされた両腕。
 頬に落ちたものが涙なのだと、咄嗟に理解する事が出来なくて…
「お…かあさん?」
 問いかけた声に、まるで子供のように声を上げて泣くその姿。
「おかあ…さん」
 頬に触れる髪に、抱きしめる腕の温もりに、自分の名を呼ぶその声に…
 そっと両腕を回し、抱きしめた。







 ゆっくりと落ちていく水滴。
 どこまでも暗いその場所に珠紀は居た。
 むき出しの岩肌に背を預け、熱を持つ箇所に手を当てる。
 あの時…
 肉を絶つ感覚と、焼けた背。
 間近で見た、真弘の表情に、思わず…
 泣き出しそうになってしまったなんて…
「いい加減、諦めたらどうだ?」
 上から落ちてきた声に、珠紀はゆっくりと顔を上げた。
 真っ白い肌に、赤い瞳。
 作り物のような笑みを浮かべた、その男の名を、珠紀は知っていた。
 いつから…と言うならば、きっと、この世に生れ落ちた瞬間から。
 血に、遺伝子に刻まれたその存在の名…
 それは…
「…鬼斬丸…」
 出した声に応えるように、男の口角がゆっくりと上がる。
 伸ばされる指から顔を背け、抉られる傷に、眉間に皺が寄る。
 爪の先で擦られる傷跡に、額に浮ぶ脂汗。
「オマエ一人の体ではないのだから、大切にして欲しいのだがな」
「傷をつけた張本人が、ずいぶんな事を言いますね」
 吐き出した息。
 瞳を閉じれば、思い浮かぶのはただ一人の人だけれど…でも、口には出さない。
 あの瞬間…
 自分が彼を貫いた、あの瞬間に、道は別たれてしまったのだ…
「これくらいの傷ならば、命を落とさないだろうと思っていたのだが」
 違うか?と、問う声に瞳を伏せる。
 違わない。
 現に、岩肌に押し付けた、目の前の相手から受けた傷は、既に血を止めている。
 相手が何かをしたわけでは…ない。
 ただ…違うのだ。
「まだ…渡しません」
「強情だな」
「契約ですから」
 あの時…
 己の体から力が溢れた、あの時。
 目の前で、まるで、紙切れのように散らばった両親の体。
 信じられなくて…
 自分がやったとは信じられなくて…
 けれど、両手は赤く染まり、何も写さない母親の眼差しは自分を見つめていた。
『忘れたいのか?』
 問われた声に頷いたのは自分。
『ならば、契約を交わそう。玉依』
 告げられた言葉に頷いたのは自分。
『オマエの中の力が熟すまでの一年間。その間、待っていてやろう』
 傷ついた室内。
 壊れた家具。
 望んだのは…
 共に…居たいと…ただ、それだけだったのに……
 肩に落ちた雫に瞼を揺らし、珠紀はそっと息を吐き出す。
 期は…熟していた。
 全てを忘れ、この村に戻ってきた一年間。
 何もかも忘れ、幸せを味わった。
 言葉を交わし、思いを交わし、己の罪も忘れ…
「先輩には、手を出さない約束でした」
 手のひらを握り締め、噛み締めた奥歯で痛みを堪え、目の前の男を睨みつける。
 そう、約束。
 自分が彼のモノになるのならば、余計なモノには手を出さないと…
 それは、祭りが始まる前日。
 記憶が戻った瞬間に、告げられた言葉。
「私から手を出した覚えはないが?」
「…夢を」
 そう、手を出してはいない。
 あの時に限っては。
 だが…
「夢を…見せましたね?」
 問う声に、男はそっと手を離す。
 愛しそうに細められた眼差しは、いっそ自分を愛しているのかと錯覚しそうなほど優しくて…だが、珠紀は知っていた。
 この眼差しは、自分に向けられたものではない。
 そして…
「オマエのためだ」
 この言葉も。
「契約違反です」
「どうする?」
「言わなくても…解るんじゃないですか?」
 息をするたびに、じわりと滲む痛み。
 腹部の傷のみが治りが遅い。
 その意味する事は…
「仕方がない。アレは、私と深く…交じり合っていた。それに…」
 止めたのだろう?と、声に出さずに男は告げる。
 上がる口角から視線を落とし、吐き出す息と共に瞳を閉じる。
「私が止めなければ…取り込む気でしたね」
「アレは力を望んでいた」
「違うっ!」
「アレは力を求めていた」
「違うっ!先輩はっ」
 唇を噛み締める。
 治りにくい傷は、拒んでいるから。
 人で居たいと…傍に居たいと…そう、望んでいるから。
「元より、アレは私の力が無ければ生きている事など出来なかった」
「それは…」
 そう…
 鬼斬丸の破壊。
 あの時。
 流れ込んできた力。
 命を全て使ったにも関わらず、刻む鼓動と…
「だけど、もう、貴方の力はいらない」
 癒えた傷。
 ひとりでに動き出した鼓動。
「貴方の望みは、私のはずです」
「その通りだ」
「私が望まなければ、貴方は手にする事が出来ない」
「その通りだ」
「諦めません」
「いい加減、無駄なのだと自覚したらどうだ?」
 答えなど期待してはいないのだろう。
 背を向け去っていくその足音を耳にし…
「諦めない」
 血の滲む腹部を愛しげに撫でる。
 諦めない。
 諦めるものか。
 今はただ、少し離れるだけ…
 これは、自分の罪で
 自分がつけなければならない決着で…
 けれど…
「…センパイ」
 零れる声を拾うものは誰も居ない。
 流れる涙を拭うものは誰も居ない。
「先輩」
 助けて欲しいなんて思わない。
 救って欲しいなんて思わない。
 でも…
「声、聞きたいなぁ」
 囁く声と共に眠りに落ちる。
 傍に居たい愛したい抱きしめたい。
 ただ一人だけ…

『傍に、居てやるよ』

 届いた声に、涙が溢れた。


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あとがき。

久しぶりに、『夢よりも~』を更新しました。
あれですね。ラブが書けるようになったら、シリアスが駄目になるなんて…こう、頭の切り替えをもっとちゃんとしないといけませんね。
そして、今回でようやく春日夫妻をヤッタ犯人が解りました。
…でも、謎はいっぱいです。
終章で全て明らかになるかは…不明です(マテ)
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COMMENT



由香さまへ。

2007-09-11-Tue-22:20
はじめまして、こんばんは^^
うわー、うわー、すごく嬉しいです。
この話を書きたいがために、始めたサイトだったりするので。
今はちょっと停滞気味ですが、今のお言葉で元気が出ました。
また、続きもちょこちょこ書いていきたいと思いますっ!
コメントありがとうございましたーっ!

はじめましてf

2007-09-11-Tue-21:05
この続き見たいです!!!
本当にこのシリーズ面白いです。
あまり、守護者たちはでてこなかったけど・・・

楽しみにしております。色付きの文字

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