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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

終章-2

2008-03-14-Fri-13:08
 困った事になった。

 それが、静紀の正直な感想であった。



 二十畳の和室。上座には静紀、美鶴、そして大蛇。向かい合うように十枚程の座布団が並び、それぞれに深く皺の刻まれた男達が座っている。
障子の向こう側から差し込む日は未だ高く、煩いくらいの蝉の声が変わらず鳴り響いていた。
 男達の額に滲む汗。クーラー等の電化製品の入っていない室内は決して涼しいとは言える環境ではなく、だが、誰一人としてその事に関して不平を漏らす者は居ない。
いや…それ以上に告げるべき事があるためだ。
「いったいどうするおつもりか」
 口火を切ったのは丁度静紀の目の前に位置する場所に座った男だった。決して若いとは言えぬ年。後退した額に滲む汗を、白い木綿のハンカチで拭きながら、男は静紀に視線を向けて、の問いを投げかけた。いや、既に問いでは無いのかも知れない。
 こちらの意見など聞く気はまったく無いとでも言いたげに威嚇…そう、威嚇に見えるほどの強い眼差しを向け、強く握り締めているのだろう。膝の上に握られた手は僅かに震えている。
 ここに集まったのは、この季封村でそれなりに権力を持つ者達だった。
 確かにこの村は外界とは違い、神を中心として…いや、正確に言うならば、鬼斬丸を中心にして動いてきたと言っていい。だが、それは決して権力を持つ者を蔑ろにしていたわけではない。自分達だけでは生きていく事も、鬼斬丸を守る事も出来ぬ事を静紀は理解していたし、目の前の存在達も玉依姫を蔑ろにする事こそが、この世自体を滅ぼす事なのだと理解していた。
 外界には決して理解されぬ共生。それがこの村の現状だ。だから、静紀も玉依として彼らに協力はしてきた。そうでなければ、当にこの世に鬼斬丸は復活されていたのだから。
 だが…
「どう…とは?」
 今回ばかりは、全面的に彼らに協力するわけには行かない。表情には出さずに、静紀は嘘を突き通す決意する。
 昨日の一件。
 珠鎮祭の最中に起きた出来事。誰もが見惚れていた。誰もが想像していなかった。長い時をこの村で生きてきた自分ですらも、それは予想外の出来事だと言ってもいい。
「とぼけるおつもりかっ!当代の玉依姫は堕ちた神へその身を変えた。死傷者こそ出てはいないものの、何十人の我らの仲間がその身を汚したとお思いか!」
「私の息子は腹を切られ、起き上がる事すら出来ずに居る」
「私の息子もだっ!」
「カミの化身である玉依が堕ちた神に魅入られるとは」
 まるで鳥の巣を突いた様に騒ぎ出す室内に、静紀はそっと瞼を閉じた。
 これがこの村の中枢を担う者達の姿なのか…
 おそらく、卓も自分と同じように考えたのだろう。騒がしい室内の中、すぐ隣から僅かな溜め息が聞こえてくる。
 そう、問題なのは誰が責任を取るなどというものではないのだと、何故、彼らは気づかないのか。
自分達の手元から玉依姫という存在が消えた。
 そして、珠鎮祭とはカミを鎮めるためのものだということ。
 静紀は再び瞼を開くと、怒鳴りすぎて顔を真っ赤にさせた男へと視線を向けた。未だ何か言いたいのだろう。こちらが口を開けばすぐにでも言い返してやろうとでも言うように、腰を浮かせ、先ほどと変わらぬ視線を静紀へと向けてきている。
「貴方の息子は腹だけで済んだのね。良かったわ」
「なっ」
「他に何か言う事があるかしら」
「だから私は、何も知らないあんな娘に玉依姫をやらせるなどとっ!」
 立ち上がり、静紀へと詰め寄ろうとする男はすぐに卓に取り押さえられた。
 距離にすれば一メートルにも満たないだろう。卓の肩から見える男の顔は憤怒の表情そのままに、尚も静紀に近寄ろうと腕を伸ばす。
「そもそも鬼斬丸が破壊されたのだから、玉依姫など必要ないのだっ。それなのに、貴女は…っ」
「卓、随分興奮しているようだから、退室して貰いなさい」
「はい」
「貴女は解っていないっ!今回の件がいい例だっ。これを気に典薬寮なんぞという、うさん臭い………」
 収まらぬザワメキ。男が出て行った所で、この場に居る全員…とまでは行かないが、大多数が同じ意見なのは解っていた。でなければ、この場に集まってなど居ないはず。
「面倒な事になったわね」
 静紀は今度は口に出して言葉を紡いだ。
「先代。玉依姫を無くした方が良いとは、私は思えません。ですが…」
 そう、事は大きくなりすぎてしまっていた。あの場で舞の最中、あの場に居た者達の怪我だけならば、それなりに対処の仕様はあったのだ。現に、静紀はその場に居て、舞い散る血を見ても、収めようとはしていなかったのだから。
 だが…
「聞けば、守護者も生死の境をさ迷う程の大怪我をしたとか。…ともなれば、既に、アレは玉依ではなく…」
 真弘の想いを考えれば、あの場で留まっていろと言う方が無理なのだろう。許可したのは自分だ。静紀こそが、真弘を止めなければならなかった。だが…そう。それは、珠紀と暮らし始めてから持ち始めてしまった弱さ。
 彼ならば、もっと良い方へと収めてくれるかもしれないと…
「では、貴女の考えを聞かせて頂戴」
 再び戻ってきた卓が静紀の横へと再び腰をかける。声は聞こえていたのだろう。緊張した面差し。だが、決して口は開かない。
 そう、収めるならばたった一つしかない事を、静紀は理解していたのだ。
 脳裏に浮かぶのは、眩しいほどの笑顔を浮かべる少女の姿。
 血臭が場を占めるあの中で、静紀を見た少女は確かに笑っていた。そう、口元だけは。それは、とても、とても哀しい笑みであったのだ。
 カミに魅入られた人間がそんな笑みを浮かべる事の出来るはずがない。少女は少女の意思で力を振るった。それしか方法が無かったからだ…
 そして、それは自分にとっても同じこと。
 だから…

  静紀は男の告げる言葉を待った。例え、それが己の予想通りのものだとしても。


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あとがき。

久々な「夢よりも~」シリーズです。風呂に入っていたら、頭の中に場面が思い浮かんできたので、書いてしまいました。今更ですが、章ごとじゃなく、全部数字で繋げておけばよかったと後悔。
終章が一番長くなりそうな予感が(遠い目)
季封村のピラミッドは玉依姫>村長系>守護者>守護者血族>一般人じゃないかと思います。
ちなみに、翡翠は村長>守護者>一般人>玉依姫でしょうか。カミをどう扱うかによって、立ち位置って結構変わるものですね。(だからどうした)
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