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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

終章-3

2008-03-15-Sat-02:02


「春日珠紀の身柄の拘束。そして、可能ならばそれなりの処置を」
 決して大きくは無い男の声。だが、耳に届くには十分すぎて。




「っ、珠紀様はっ!」
 今まで黙っていた美鶴が咄嗟に声を荒げる。静紀はそれを手で制すると、ゆっくりと、一つ、息を吐き出した。
 答えなど最初から出ていた。
 そして、それは珠紀も覚悟していた事だろう。ならば、自分がすべき事は決まっている。
 静紀は頷き、口を開く。
 誰も言葉を発しない。
喋る事を許されなかった美鶴は可哀相なほどに青ざめ、手元のみを見つめていた。卓は既に覚悟を決めているのか、静紀の声を待つように、真っ直ぐに前だけを見つめている。
 目の前の男達はまるで餌を待つ犬のように、静紀の動きにのみ意識を向け…
 ここに他の守護者が居ない事が幸いだった。
 彼らは未だ幼い。自分のこの決断を知れば憤り、自分がこの言葉を言う事すら出来なくなるだろう。だから、彼らに知られる前に、ここで決断しなくてはならない。
 ここに居るのは、珠紀の祖母である静紀ではない。
 季封村に住み、玉依として生きてきた…
「この村の結界を破られた兆しは見えません。未だ彼女はこの村の中に居るでしょう」
「ならば…」
「すぐに追っ手を」
 息を一つ吐く。
 前を見つめる。
 謝罪など口にはしない。
 そう、何故なら…
「生死は、問いません」
 自分は、玉依姫なのだから。
「同時に、珠紀を玉依の座より下ろします。後継には美鶴」
「っ」
 チリン
 窓際にぶら下げた風鈴が微かな音を立てた。
 いつの間にか風が出てきていたのだろう。決して室内が冷えたわけではないが、もう、誰も汗を拭く者など居はしない。
「以上。捜索する者にはおってこちらから連絡いたします。卓」
「はい」
「守護者達にも連絡を」
「解りました」
 これからどう動くのか。どうしなければならないのか。何を優先して、何を切り捨てなければならないのか。
 静紀は何度目かになるため息を吐き出すと立ち上がる。大蛇と美鶴が続くのを見やり、襖へと足を向けた。残された男達が動く兆しは無い。
 おそらく、自分がこの部屋から出た後にそれぞれが様々な事柄について話し合うのだろう。静紀には興味の無い話しだが。
 襖から廊下へと出ると、いっきに夏の熱気が襲ってきた。着物であるためか、尚更そう感じるのかもしれないが。まぁ、洋装などした事の無い自分は、洋装の涼しさなど知りはしないのだけれど。
 聞こえる足音は三つ分。もちろん、残りの二つは大蛇と美鶴である。
 言葉を発さずに向かうのは静紀の部屋。
 そう、話さなくてはならなかった。珠紀への追ってはもう、覆せない。覆すつもりもないが。それほどの事を珠紀はやったのだ。見てみぬふりは出来るはずがない。
 襖を五つ通りすぎ、突き当たりを右に曲がる。念のために、目には見えない結界を一つ。
 日の入らぬ奥の部屋。そこが静紀の部屋であった。
 昼でも尚、灯りを灯さねば暗い室内。だが、密談をするにこれほど適した部屋も無い。
 何か言いた気な眼差しは美鶴のだろう。卓もらしくなく、どこか落ち着かない様子だ。
 襖を開き、中へと入ると静紀は文机の置いてある場所へと腰をかけた。決して広いとは言えない部屋。来客には適していないのは一目瞭然だった。申し訳程度に置かれた座布団は二つ。この部屋にその人数以上入る時は、いつも美鶴が用意していたのだが、今日は必要無い。これ以上増える事は無いからだ。
 閉じられた襖。
 互いの顔がようやく見えるそんな室内で、最初に口を開いたのは美鶴だった。
 美鶴にしては珍しく完全に座りきる前に唇を開き…
「私は玉依姫にはなりませんっ」
「言蔵さん」
「誰が何と言おうと、玉依姫は珠紀様です、私はっ」
「おだまりなさい」
「っ」
 文机の上からマッチを取ると、擦り合わせて火を付ける。鼻に香る火薬の香り。それをすぐ横の灯篭に付けると、静紀はふぅ…と息を吹きかけ火を消した。
 ゆうらりと揺れる灯篭の灯り。
「感情を持つ事は悪い事ではないわ。かつての貴女からは想像つかなかった事だものね」
 人形のような少女。かつての自分はそう称した事があった。
 だが、珠紀がこの村へ来て、少女と接するうちに美鶴は確かに変わっていったのだ。
 年頃の少女のように笑い、怒り、時には拗ねて。それが決して悪い変化だったとは言わない。だが…
「けれど、感情に任せてその問いのみを投げかけるのは愚かな行為よ?そうでしょう?卓」
 あえて、卓へと言葉を振った。
 黙っていた彼が気になったから?いや、違う。卓は間違いなく理解している。あの場には居なかった彼だからこそ、冷静に分析出来ると言っていい。
「私も言蔵さんが玉依としての後継に付く事は良い事だと思いますよ」
「大蛇様?」
「よく、考えてみてください。この村には鬼斬丸はもう無い。けれど、カミは居る。私達は確かにカミの血を引いています。ですが、この村に住むのは私達だけではない。…お解かりですか?」
 美鶴がはっとしたように大きく瞳を見開いた。
 美鶴も理解できたのだ。自分達は未だいい。人には無い力を持ち、人には見えないものが見える。だが、この村に居るのは何も力を持った存在だけではないのだ。
 薄れ行く血に目覚める事なく、只人として暮らしている者も居る。
 だが、この村に居る限り、たとえ見えなくとも信じぬわけにはいられない。そう、例えば自分の親が、自分の子供が特別な力を持っているために、必要だと言われたら、理不尽に思いながらも、身を切られるような哀しみに打ちひしがれたとしても、差し出さないわけには行かないのだ。
「…解ったようね?」
 見えぬ人々にとっては玉依姫とは自分達を縛る鎖そのもの。無くなるならば、無くなった方がいい。外界と同じように、生き、そして死ぬ。だが、この村がカミの地である以上、土地の管理者は必要だった。
 管理者の居ない土地のカミは荒れ、人に害を為す存在となるだろう。かつてのような生贄はもう行う必要はないだろうが、玉依姫という存在を無くすわけには行かないのだ。
「それともう一つ…」
 むしろ、ここからが本題だった。
「珠紀が舞いと同時に人々を傷つけた。この意味…解るかしら」
 沈黙。
 だが、薄々は感じているのだろう。卓がポツリと、「死人」と呟いた。
「そう、死人が出なかった。あれだけの血の中で、立っている者は本当に限られていたあの中で、死んだ者は誰も居ない。そして、珠紀が舞っていたのは珠鎮の舞い。あれは本来、カミの魂を抑えるだめのもの。そして…」
「血は命。命とは最上の貢物。かつてより、カミの怒りを抑えるために、生贄を用意するのは知られている所です。事実、私達もそうしていた。けれど、本当に必要な物は命ではない…」
 必要なのは、命に含まれた力。
 あの場に居たのは、力こそ発言しなかったとは言え、守護者の眷属。本来の人よりも数倍の力を秘めていただろう。
「珠紀様は…抑えていた?」
 そう。
 何を。
 決まっている。
「では、鴉取様は…」
「横槍を入れた…という事になるかしら」
「そんなっ」
 人を傷つければどうなるか…そんな事を珠紀が知らなかったはずはない。方法は他にもあったはずだ。だが、出来なかった。
 瞳を閉じても思い出す。黒い髪。紅の瞳。長身の男の姿をしていながら、ソレは人ではありえなかった。強大な力。カミとすら言っていい。間違いなく、流れた血ごときでは、アレを抑え込める力は足りず、だが、珠紀にとっては必要だった。
「珠紀は、真弘が来る事を知っていたのね」
「はい」
「………真弘に会います」
「ですが、鴉取様はっ」
「起きていますよ。鴉取君は」
 未だ、情報が足りない。
 解っているのは、珠紀が人々を傷つけてまで抑えたかったモノがあったという事。そして、それを真弘が邪魔をしたという事。だが…
 腑に落ちない。
 力が必要ならば、真弘の血こそ力になるのではないか。確かに珠紀は真弘を傷つけた。だが、あれはそんな事よりも…もっと…
「考えていても始まらないわね」
 それに、飛ばしておいた鼠も未だ戻ってきては居ないのだ。ならば、足りないパズルのピースを集める事から始めるのが得策だ。
 時は待ってはくれないのだから…
「真弘をここへ。美鶴」
「はい」
 ゆぅらりと再び灯りの火が揺れた。
「厄介な事…」
 あぁ、けれど…
「これを、運命と言うのかしら」
 鬼斬丸の破壊こそが序章とでも言うように起こる出来事は、否応なしに少女を巻き込んでいく。玉依姫の宿命と言ってしまうには、それはあまりにも重すぎた。
 何故自分ではなく、珠紀なのか…
「それこそが、カミの意思…」
 口元に浮かぶ笑み。そう、珠紀はおそらく近すぎたのだ。
 歴代の玉依姫よりもあきらかに人として存在していた少女は、おそらく誰よりもカミに近いのだろう。
 だからこそ、惹かれる。だからこそ、飲み込まれる。
 願わくば…
 静紀はゆっくり瞼を閉じた。信仰するものは持たない。それでも願うのはおかしな話だと思いはするが…
 願いは口に出すことなく、空へと溶けた。


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あとがき。

文才が欲しいーーーーーーーっ!!!!!あぁ、もう、トップに躍り出ましたよ。欲しいものランキング不動の一位ですよ。何度、同じ言い回しすりゃいいんでしょうね、自分。いい加減にしなさー(T▽T)=○))))))))#;3;)ノノーーーいっ、てな感じですね。えぇもう本当に。
ハジマリが微妙なのは、前回と繋げて書いていたせいです。
量が多くてぶったぎりました。(遠い目)
うわぁ、もう本当にスミマセンとしか言えません。まぁいいや(立ち直り)次でリベンジします。頑張ります。
そして、本文ですが…珠紀VS村の図式が出来上がりました。次か次の次くらいで第一部完(予定)です。
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