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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

1章-2

2006-08-03-Thu-03:20
 ポン…ポンと、空に祭りの花火が上がる。
 青く晴れた空には、白い煙が浮かんでは消え、また浮かび、珠紀はそれらを見上げながら、小さな小さなため息をついた。

 年に1度のお祭り。
 珠鎮祭。
 毎年執り行われるその祭りは、鬼斬丸を封印し続け、その御霊を鎮める祭りとして宇賀谷家が執り行い、その巫女を勤めるのが珠依姫であった。
 昨年までは先代珠依姫が執り行っていたが、今年は当代珠依姫として、珠紀がその任についている。
 やる事は分家への挨拶と祈祷。
 夜には、神社にて珠鎮の舞を舞うという、目の回る忙しさ。
 しかも、夏にも拘らず己がつけているのは、巫女装束。
 人に逢う度に、珠依姫と呼ばれ、祭りの間は珠依姫として振舞う。
 だから…なのだろうか。
 珠鎮祭が近づくたびに、夢に見る、あれは…
『すまない…』
 男の人の声が蘇る。
『私は守護者として、貴女を守りましょう』 
 また、違う男の人の声。
『私は生き残ってしまった…』
 いくつもの記憶が流れ込み、長い長いその年月は、確実に己の人生を否定していく。
 だが…
「今日は違ったよね」
 繰り返される記憶。
 何度も思い起こされる想い。
 だが、時たま…紛れ込むように、今日の夢のような景色が現れる。
 記憶ではなく、過去ではなく…
 ただ、名を呼ばれ、そして…連れ戻される夢。
 決して嫌な気分ではないのだが、それでも珠紀はポツリと言葉を口に載せた。
「嫌だな」
 神社の境内は、既に祭りの準備が執り行われた後で、中央には大きな舞台。
 今日の夜。己はそこで舞を披露するのだが、神域と言う事で、今はここに誰も居らず…
 何故、指が震えるのかは解らない。
 だが…
「………ぃ」
 小さく、小さく、大切な人の名を呼ぶ。
 あの戦いからどれほどの月日が経ったのだろう。
 共に昼食を屋上で食べていた。
 卒業式の日、学校こそ違えども一緒に居られると信じていた。
 実際、彼はすぐ側に居る。
 学校は離れてしまっても、行き来しようとすればすぐに会いに行ける。
 なのに…
 頭の上で、花火が鳴る。
 もうすぐ祭りが始まる。
 自分は珠依姫と呼ばれ、そして…

 ※※※

 川沿いには屋台が並び、風に乗って届くお囃子の音色。
 神輿こそ担がれないものの、提灯が灯り、祭り一色になっていく道を真弘は宇賀谷家に向かって歩いていた。
 毎年この時期になると訪れる、珠鎮祭。
 神々をタタリガミへとしないために始められたこの祭りだったが、今はその意味を知っているものは少なく、一部の人間のみとなっている。
 カラコロと下駄を鳴らす音。
 隣を通り過ぎた少女を横目で見送りながら、浴衣着ねぇかなぁ…なぞと呟くその姿は、守護者という肩書きを持っている存在にはとても見えない。
 頭にあるのは、たった一人の少女の事だけ。
 珠依姫と呼ばれ、たった一人でその重みに耐え、しまいには己とこの世界そのものを掬ってしまった少女。
 そして、自分の大切な存在。
 毎年、この祭りのために宇賀谷家がどれほど大変なのかは知っている。
 実際、彼女…珠紀も、先日会った時には、疲れた表情で、『カミサマに捧げる舞を覚えないといけないんです…』とか言っていた。
 それでも、真弘の足は進む事を止める事は出来ない。目前に見えるのは大きな門。
 せわしなく門を潜る人の中をすり抜けながら、真弘は神社の境内へと向かった。
 約束していたわけではない。
 だが、何故か…彼女がそこに居るような気がしたのだ。
 徐々に落ちていく日は真弘の足元に影を作り、同時に火の入るかがり火がゆらゆらと風に揺れる。
「疲れた顔してんなぁ…」
 口から出る言葉は誰に話すでもなく、ひたりと見据えた視線の先に居る少女へと向けられる。
 歩くたびに、玉砂利の音はするだろう。
 気配を今の彼女ならば容易く感じる事が出来るだろう。
 自分は、足音を鳴らし、気配を消すことすらせずに彼女へと近づいているのだから。
 だが、それでも彼女は気づかず、ぼんやりと正面を見詰めるその眼差しを動かす事は無かった。
「おい…」
 ようやく正面。
 そこで、ようやく珠紀は真弘が居た事に気づいたように、その眼差しを真弘へと向ける。
 見下ろす真弘の影の下で、彼女はいつもよりも心細そうに見え…真弘はそのまま、相手の頭へと片手を置いた。
「どうしたんだよ。らしくねぇな」
 開いては閉じる唇は、まるで、言葉を探すように何度も繰り返され、やがて…
「……ぃ、は」
「ぁあ?」
「先輩は…夢を見ますか?」
 見上げられる眼差し。
 茶化そうとするその口は、相手の真剣な表情に也を潜め、代わりに出るのは柔らかい笑み。
「おう、見るな。このまえなんかなー、クリスタルガイが出てきて…」
 指に触れる相手の髪を梳きながら、くだらない己の夢の話しを続ける。
 少しでも、彼女の気を紛らわせたくて…
「そうじゃなくて…昔の…夢とか、見ますか?」
 以前、聞いた事がある。
 それは、ずいぶん前…そう、相手と己がこんな関係になる前に、過去の玉依姫としての記憶が夢となって出てくるのだと聞いた事があった。
 あの時の彼女は、これほどに不安な表情を浮かべていなかったかのように思う。
 真弘はくしゃりと相手の髪を撫でてから、その場にしゃがみ、今度は下から覗き込むように相手の顔を見る。
 揺れる眼差しは、篝火に照らされ、巫女装束を握るその指先は握り締めて白くなっている。
 何をこれほど脅えているのだろう…
 その理由を知りたくて、真弘はゆっくりと口を開いた。
「昔の…は、しょっちゅう見ていたな。…クウソノミコトだった頃のや…」
 そこで、息を一つつくと、僅かに笑みを浮かべる。
「ガキの頃の…とかな」
「最近は?」
「最近?…………」
 見ていないと言いかけて、そこでふと、口を噤んだ。
 目を覚めれば忘れてしまうそれ。
 だが、夢を見ていた事自体は覚えており、起きた時の体のだるさと後味の悪さで、それがいつもの夢だったのだと気づく。
「最近っつーか、結構前からだけどな…呼ばれている夢を見る。…詳しい内容は覚えちゃいねぇが、それでも、誰かに呼ばれているような夢でなー。薄っ気味悪ぃ夢だ」
 そう、最初にその夢に気づいたのは、鬼斬丸を破壊し、少し経ってからの事だった。
 力を使ったわけでもないのに、起きた瞬間の、あの冷や汗と体のだるさは今でも覚えている。
「つーか、どうしたんだ?嫌な夢でも見たのかよ」
 己の夢の内容に考え込む珠紀に、ひらひらと手を振って見せてから立ち上がり、ゆっくりと空を見上げる。
 月は丁度頭の真上。
 どこからか祭り独特の音楽が聞こえてきて、チラと時計を見ると、あと10分程で祭りは始まる。
「ホラ」
 真弘は片手を珠紀へと差し出すと、不思議そうに己を見詰める相手から言葉が返ってくる前に立ち上がらせ
「時間がねぇから、行くぞ?」
「はい?」
 そのまま、トン…と地を蹴った。
 背でゆっくりと広がる翼。
 相手の腰を抱き、そのまま上へ上へと上がっていく。
 目標地点はご神木の天辺。
 一際太い枝まで上がると、そこに相手の足をつけさせる。
「せ、せせせんぱいっ、高いですっ!」
 必死にしがみ付いてくる相手に、思わず笑みが零れたが、ふいに、とある事に気づいた真弘は、視線をそのままぎこちなくずらした。
「あ、あんまり、しがみ付くんじゃねぇぞ」
「…っ、連れて来たのは先輩じゃないですかっ」
 言えば言う程に真横から抱きしめられ、丁度、腕の位置に当たる柔らかい物に真弘は平成を装うものの、徐々赤みが増していく頬。
 咳払いを一つし、瞳を瞑ろうとしている相手の頭を強引に前へと向かせ…
「ぁー、もういいから、前見ろ前」
 更に文句を言おうとする相手だったが…ふいに、隣で息を飲む音が聞こえる。
 この際、腕に当たる物に関しては感じぬフリを装いながら、己も目の前の景色に集中。
 転々と光る灯りは提灯。
 それは、木に飾られているもの、人の手に持たれているもの、川に流されているものと数々あり、その一つ一つが蛍のように、ゆらりゆらりと揺らめきながら移動している。
「き……れい」
 まるで、思わず口から零れたかのように出るその言葉は、そのまま真弘の耳に届く。
 出来れば、祭りを一緒に回れるならば、それが一番いいのだろうが、相手には相手の役目があり、きっと、彼女はそれを捨てる事が出来ないだろうから…
「元気出たか?」
 問う己の言葉に、珠紀は驚いたとでも言うように、真弘を見た。
 気づかれていないとでも思っていたのだろうか。
 これほど解りやすい人間を…自分は…知らない。
「有難うございます」
 ゆっくりと相手の顔に広がる笑み。
 下からは、珠紀を呼ぶ声が聞こえる。
「しゃーねーな。んじゃ、降りるか。………とりあえず、今日も入れて後3日だろ?今日はここで、後は…」
「封印域です。2日目は、1つ目と2つ目と3つ目の封印域。3日目は、4つ目と5つ目」
「そのたんびに、舞かよ………」
「けど、先輩も3日目はついていてくれるんですよね?」
 各守護者は、各封印域の珠鎮めの舞の時のみ、その場に居合わせる事が出来る。珠紀は、その事を言っているのだろう。
「オマエの舞なんざ、見てもしゃぁねーが、どーしてもってんなら、見てやるよ」
 思っても見ない言葉。
 本当は、見たくて仕方がないというのに…
「どーしても、見てくださいね?絶対、惚れ直させるんですからっ」
 いつもの口調にいつもの笑み。
 再度、下から珠紀を呼ぶ声が聞こえ、真弘は大きく羽を羽ばたかせると、相手と共にゆっくりと下へと降りていく。
 待っているのは、やはり巫女装束の美鶴。
「鴉取様、玉依姫様は大切な体なんですから、疲れさせないで下さいね」
「ぁーあー、解ってるよ。んじゃな、珠紀、美鶴。頑張れよ」
 用事は済んだとばかりに、真弘は踵を返すと門の方へと歩きかけ…ふいに、呼ばれた気がした。
 誰に…かは解っている。
 耳に届く事の無い声。
 幻聴かもしれないとは思わなかった。
 肩越しに振り返れば、先程までの相手の笑みは消えており…
「…先輩」
 どうした?と声をかけようとするも、相手の声にかき消される。
「先輩の、夢は……」
 言葉を選ぶように、迷うように口を開き、だが、それ以上、その言葉の続きは出てくる事はなく、緩く首を横に振る。美鶴も何かおかしいとでも思ったのか、それでも何かを告げようとしている珠紀を見守り…
「先輩、私の名前…呼んで、貰っていいですか?」
 願いにもならない願い。
 そんなのはいつも呼んでいる。
 改めて、願われるものではないはずだ。
 だが…
 だが、今彼女は呼んで欲しいと言い、そして願っている。
 ならば…
「珠紀」
 ゆっくりと少女の瞳に広がる笑み。
 それをもっと見たくて…
「珠紀」
 もう一度、名を呼んだ。
「ありがとう…ございます」
 少女の瞳に揺れる影は消える事は無かったけれど、それでも、少女の笑みは先ほどよりもずっと良く…
 今度は彼女から背を向けて歩き出す。
 祭りの時間も差し迫り、人気の無かった舞台には宇賀谷家分家の親族が集まってきている。もちろん、その中には、言蔵家も入っている事だろう。
 その中を縫いながら、真弘は門を出る。
 一度振り返りはするものの、中に入る事は叶わず…

 僅かな…ほんの僅かな胸騒ぎ…
 その時、聞いておけば良かったのだ。
 例え時間が差し迫っていたとしても、聞いておかなければならなかった。
 夢の内容と…彼女の想いを。
 だが…
 今の彼にそれを確かめる術は無く…
 ゆっくりゆっくりと進んでいく時。
 気づいていたのは彼女か…それとも…



=一章完=
 
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あとがき。

 ようやく、連載を再開出来ました。
 怒涛のような文章が頭の中に流れ込んできて、ぴっかりんとばかりに、閃いたのは仕事中だったりしましたが…いや、休憩時間中に忘れないようにとコピー用紙に必死に書き殴ったのは秘密です。
 次は2章ですが、実は…2章か3章くらいしかまで、プロット出来てなかったり(だめじゃん)後は、閃きのカミサマに祈るのみ。なむー  
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