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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

ブルーブルースプリング。

2008-05-26-Mon-21:43



「拓磨は、私に優しくない」



 沈む夕日に延びる影。
 耳に届く蛙の合唱を聞きながら、拓磨は水のはられた田んぼの隣、舗装されていない畦道を、珠紀と共に歩いていた。
 車の轍の後を踏みながら、背から聞こえる軽い足音。

「拓磨は、私に優しくない」

 その日は朝からとてもよく晴れていて、夏までは未だ時があいているにも関わらず、風はその日の気温を示すかのように熱を僅かに含んでいた。
 予想気温、25度。 
 都会からしてみれば、大した温度ではないのかもしれないが、この山間の田舎では、そんな温度がこの5月下旬という時期に出る事自体が珍しかった。
 だから…と、拓磨は最初は思っていたのだ。
 暑さピークの昼食時。
 しかも、食べる場所は屋上という日陰も何もあったものではないその場所で、着ているものは衣替えがまだなため、冬の寒さを超えられる、しっかりとした作りの制服で。
 正直、熱い。
 汗すら出てくる。
 体が重くなり、些細な事でいらついて…だからなのだと、拓磨はずっと…そう、昼から放課後、そして帰り道に至るまで、ずっとそう思ってきたのだ。

 珠紀の機嫌が悪いのは。

「…なんだ?」
 ピタリと歩みを止めて、拓磨は肩越しに振り返る。
 昼食を食べ終えて、授業を受け、教室を出て、下駄箱で靴を履き替える。
 異変に最初に気づいたのは弁当をつついているその最中で、それが確信に変わったのは教室を出るため、声をかけたその瞬間だった。
 いつも笑みを浮かべる表情は曇り、何か言いたげに向けられる眼差し。
 かけた声に帰ってくるのは、「うん」とか「そうだね」とか抑揚の無い一言で。
 視界に入る少女の姿。
 おそらく自分が振り返るよりも前に足を止めていたのだろう。
 思ったよりも、少女と自分の距離は開いていた。
「珠紀?」
 問う声に、少女の声は聞こえない。
 逆行のためかその表情すら見えなくて、拓磨は少女へ一歩近寄る。

「…今日…お弁当、美鶴ちゃんのを誉めてた」
「……そりゃ、誉めるだろ」
「でも、卵焼きが私作だって知ったら、卵焼きだけ貶してた」
「…あれは」
「どうりで、美鶴のにしては形が悪いと思ったって言ってた」


 今日の昼。
 珠紀が持参していたのは、美鶴特性の重箱だった。
 どうやら、美鶴が皆で食べてくださいと持たせたらしい。
 素人…とは思えぬその品を、むしろ誉めるなという方が無理だろう。
 卵焼きに関しては…いつも言っている事だし、今更ではないのだろうか。


「それに、教室から出る時」
「………」
「クラスの女の子に扉、開けてあげてた」
「…両手に荷物持っていたからな。どんだけ冷たいやつだよ。俺は」
「私してもらった事ないもん」
「そうなる前に、俺が持っているからだろ」
「でもっ」

 止まる言葉。
 濃くなる影。
 同時に増えていく虫の音色に、拓磨は少し考える。


 今日、珠紀の機嫌はいつも以上に悪かった。
 朝は…そうでもなかったが、昼の…そう、弁当の一件から少なくなった少女の笑みに、教室から出たと同時に消えた少女の言葉。
 離れた距離と、告げられる言葉。

「……拓磨は、私に優しくないよ」
 ちなみに、これで三回目。
 一度目二度目と、明らかに違うその音色。


 理不尽だと言葉を紡ぐのは簡単で。
 その言葉に背をむけるのは、きっともっと簡単で。
 ある意味濡れ衣とでも言うべき少女のそれらの発言は、聞く者が聞けば、何て勝手なのだろうと腹をたてる者もいるのだろう。
 だが……
「…私にだって、優しくしてくれたっていいじゃない」
「解ってる」
「解ってないっ」
「解ってる」
「解ってないっ!だってっ」


 拓磨、笑っているじゃないっ!


 耳に届く声に、慌てて拓磨は口元を手で隠す。
 笑っていたか?
 問う声は自分自身に。

 答えは…否。

 正確には…にやけて…いたのだ。


 優しくない…と少女は告げる。
 優しくして欲しい…と少女は望む。

 その意味する事。
 鈍い鈍いと言われはするが、そこで間違えてしまうほど自分は鈍くはないはずで…

 口元から手を外し、代わりに一歩少女へ近寄る。
 睨み付けるような眼差しに、横一本に結ばれた口元。
 そのくせ、時折不安気に瞳が揺れて…

「美鶴の弁当は美味い」
「………」
「困っていたら、扉くらいは開ける」
「…………」
「けどな」

 藍色に変わる空には星が一つ。
 山裾へと消えていく橙色を視界に入れながら、拓磨はさりげなさを装いながら腕を伸ばし………

「俺は、おまえの弁当のが食いたいし、おまえが困る前に助けたいと思ってるんだ」
「拓磨?」
「っ、だから」

 開きかけた唇。
 途中で止まる声。
 真っ直ぐに見つめられる眼差しに、伸ばしかけていた腕をピタリと止めて。

「帰るぞ」
「へ?」
「ほら、手」
「………うん」
 へらりと笑う少女の笑みに、不覚ながらも視線がふらつく。
 再び動き出した足は、少女の家へとしっかり向かい…


「拓磨」
「…なんだよ」
「…拓磨」
「………」
「ごめんね」


 背から聞こえる謝罪の言葉と、強くなる握る掌の感触に、僅かに感じる後ろめたさ。
 少女は何も悪くない。
 むしろ告げられた言葉は自分を喜ばせるものばかり。

 だからこそ………


 床に落ちる影二つ。
 少女にはとても申し訳なくはあるものの、それでも…


「キャラ的に俺じゃないんだ。こーいうのは」
「拓磨?」
「何でもない」



 春を過ぎ去り初夏の入り口。
 甘酸っぱい青春の一ページ。
 それが、今時の高校生として正しいものなのかは不明と言えども、幸せな二人には関係なくて…


=========================
あとがき。

拓磨ファンの方、ほんっとうにスミマセン。(土下座)なんだろ、この、微妙さっ、もう、あぁぁぁ(涙)
しかも、無駄に長いっ!
拓磨は優しいよっ!優しいんだよっ!
何が書きたかったのかというと、こう、嫉妬までは行かないけれど、もやもやーっとして珠紀が拓磨に八つ当たりをして、その内容に拓磨が気づいてにやりとしている所が書きたかったんですー
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COMMENT



お嬢さまへ。

2008-05-29-Thu-02:45
お嬢様、こんばんは。お久しぶりですーっ!
そしてそして、コメントありがとうございますっ!
甘酸っぱい青春編。楽しんでいただけたようで良かったです(ほぅ)
青春…いい響きですよね。
青春…青春…本当に。
私も、青春の「せ」の字も無い学生時代をすごしてきましたが、書いたお話しで、お嬢様にも甘酸っぱさを味わっていただけたら幸いです。
そんなお嬢様を見て、私も甘酸っぱい気持ちにさせていただきます(マテ)
ではでは、コメント、本当にありがとうございましたーっ!!

管理人のみ閲覧できます

2008-05-28-Wed-20:47
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