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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

夏風邪。SIDE-TAMAKI

2006-07-16-Sun-01:27
 目の前にはことことと煮立つ土鍋。
 横には並ぶ食材。
 後ろには我が家のものとは違う、キッチン風景。
 耳に届くのは煩いほどの蝉の声。

「………ここで帰ったら、駄目だよね」

 小さなため息と共に、珠紀は呟いた。
 ことの起こりは、そう、何気ない一言からだったのだ。

「真弘が風邪をひいたらしい」

 鬼斬丸の一件が終わった後も、いつものメンバーでいつものごとく集まって、いつもの場所…屋上にて昼食をとっていた。
 いつもと変わらない日々。あの日の事が夢だったのかと思えるほどに平和な日々。
 それは、その日も変わらないはずだった…
 実際には、変わっていなかったのだろう。
 そう…真弘がその場所に居ない事意外は、なんら変わりのない日常。
 昼食時は揃いも揃って同じ時間に来るわけではない。
 早く来る時もあれば、遅い時もある。
 だから、祐一のその一言が出るまで、誰も思っていなかったのだ。
 あの………あの真弘が、風邪を引いて学校を休んでいるだなんて…
 その時の皆の顔は心配…等はどこにもなく…
 『驚愕』の一文字だった。
 最終的には、夏風邪の単語で皆納得はしたのだが…

「少し、可哀想になっちゃったよ…」
 …先輩…と、涙を拭うふりをしながら、出来上がった土鍋。鍋の中身は日本古来からの病人職『おかゆ』なのだが、それと共に蓮華と小鉢を盆に載せて、廊下を歩いていく。
 現在、自分が住んでいる祖母の家程ではないにしても大きな作りの日本家屋。長い廊下の先には、最初に通された先輩の部屋があり…

「先輩?」
 障子ごしに声をかける…が、返事はない。
「先輩?」
 再度、声をかけるが、やはり返事はない。
 門の前で立ち往生していた自分を招きいれたのは真弘で、風邪をひいているのに出かけていたのだと、何故か大意張りで言ったその姿を怒鳴りつけ、殴りつけ、無理やり部屋で寝かせた。
「出かけちゃったのかな…」
 文句を言いながらも、それでも、看病をしに来たのだと言うと、おかゆが食べたいと告げられた。
 迷うように障子を開き、顔のみ中へ覗かせると寝息を立てる彼の姿。
「熱あるくせに、出かけるからですよ」
 眉間に皺を寄せ、苦しそうに唸るその姿は、かつての彼を思い出させて…
 足音を忍ばせながら、そっと近寄ってみる。
 夏にもかかわらず、その部屋は涼風が入り…

 珠紀は、畳に盆を置くと、真弘の隣に腰を下ろした。
「綺麗な顔…」
 普段、勝気な印象を与えるその眼差しが閉じられているせいだろうか、いっそ儚く見えるその顔は、忘れそうになる…だが、忘れられない出来事を珠紀に思い起こさせる。
 綺麗と言うならば、確かに祐一のが綺麗なのだろう。
 だが…
 指を伸ばし、タオルに触れる。
 熱を奪い、生暖かくなったソレを冷やし、再び相手の額に乗せてはその寝顔を見つめ…
「護ってくれていたんだよね…」
 両腕を伸ばして、敵の目の前に立って、傷だらけになっても、死にかけても、必死で自分を護ってくれていた。
 命をかけて、仕方ないのだと笑い…
「……こんなに、小っちゃいのに…」
「だーれが、小っちゃいって?」
 思考はそのまま口から出ていたらしい。
 地を這うような低い声が、寝ているはずの相手から零れた。
「先輩…起きて?」
「今、起きた。…つーか、なんでオマエがこんなトコに…」
 言いかけ、ふいに口を噤むと真弘はゆっくりと置かれている土鍋へと視線を向ける。
 どこか怒っているような表情で、だが、寝ている時の儚さは消えうせ、いつものようなきつい眼差しを珠樹へと移すと…
「食わせろよ」
「は?」
 思わず出たのは、どう取り繕ってみた所で間抜けとしか言えようもない声で…
「おまえの耳は、飾りか?俺は熱が出ている。お前は看護人。食わせろ」
 そう言いながら、真弘は上半身を起こすと煩わしそうに額のタオルを枕の隣へと置いた。
 そんな所に置いたら、濡れちゃいますよ…と、言いそうになった声は、思ったよりも真剣なその眼差しと、不釣合いな程に真っ赤になっているその顔色に止まり…
「えー…っと、その、熱いですから……」
「オウ」
「先輩って猫舌ですか?…だったら、水とか持って来ないと」
「ダイジョウブだ」
「あ、風邪薬はっ」
「…珠樹」
 こういう時の先輩は…困る…
 真剣な眼差しで、真剣な表情で、ふいに覗かせる男の人の顔が、珠樹にとっては怖くてたまらなくなる。
 そのまま…どこかへ行ってしまいそうで…
 蓮華でおかゆを掬い、小鉢へと盛ると一旦動きを止めて真弘を見る。
 それ以上急かす事もなく、ただただ己の行動を見守るその視線に自然と頬が熱くなり…
「先輩、ハイ」
 レンゲにおかゆをすくうとそのまま真弘の口へと持っていく。

 煩いくらいの蝉の声が止んだ。
 もしかしたら、まだ鳴いているのかもしれない。
 けど、それ以上に自分の心臓の音が煩く、差し出した蓮華からおかゆを食べる、その瞬間まで、目を離す事は出来なかった。
「…なんだ。結構、いける」
 ポツリと呟くその声に、体中の力は抜けて…
 それは、あまりにもいつも通りの相手の姿。
「ま、美鶴にゃ負けるがなー」
「先輩が、食べたいって言ったんでしょ!」
 風が頬を撫でる。
 零れだす笑みと、笑い声。
 先ほどまでの雰囲気が嘘のように動き出す時間。
 だけど………
「先輩、どこにも行かないでくださいね」
 そんな言葉が口から出るのは…
 ふとした拍子に思い出してしまうから。
 未だに残る、この痛みを…
「珠紀?」
 浮かぶのは笑み。
 なんてね…と茶化しながら逃げるように立ち上がり。
「それじゃ、先輩、お大事にー」
 そう…逃げた。
 追って来るはずもなく、捕まえられたとしても、どうにもなるものではないのだけれど…


 おじゃましました…の挨拶をそこそこに家を出た瞬間に襲う熱気。
 まるで、夏であった事を忘れていたかのように、額に汗が滲む。
「………どうしちゃったんだろ………私」
 高鳴る心臓。
 あの時は…あの時は必死で。
 そう、必死で…
 先輩が好きで、大切で、愛しくて……
 その命を護りたくて…
「本当…どうしちゃったんだろ」
 残るのは、甘い痛み。
 決して不快でない、それは…
 あまりにも……

 
 渡された鍵は未だ少女の手の中。
 扉が開くのは、まだまだ先か…それとも…

夏風邪 SIDE TAMAKI →


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後書き

はい、夏風邪です。というか、風邪っぴき、看病は王道です……が、ただの王道にはいたしません。
これは、今のままのほのぼの系が好きな珠紀と少し先に進みたい真弘のガチンコ対決の一つとして、作ってみました。…というか、最初は、単なるほのぼのだったんですが…
 なんといいますか、珠紀は、男の表情を見せる先輩にトラウマがあるんじゃないかなーと。なんせ、生死の最中の表情でしたから。
 なので、先輩は好きだけれど、男の表情の先輩は少し恐怖を抱いてしまっている…という、所を書きたかったんですが…やはり、文章力ですか。えぇ。
 ま、そのうち真弘パターンも載せるつもりですので、そちらも読んで頂ければ幸いです。
 後々、もし少しでも、面白いと思っていただけたならば、拍手…ではないのですが、闘魂抽入をしていただければ、大変喜ぶので、お願い致します。拍手(闘魂抽入)は「はじめに」に置いてありますので、なにとぞっ!
 

 
 

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COMMENT



2006-09-30-Sat-03:29
サオリ様へ

今晩は。暖かいお言葉、本当に有難うございます!
もう、そう言って頂けるだけで、まだまだ頑張って行こう!…と、元気の鈴が鳴り止みません。
更新は、亀の歩みほどに遅かったりしますが、どうぞ、また見にきてやってくださいませ。
本当に、コメント有難うございました~

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2006-09-27-Wed-23:19
このコメントは管理人のみ閲覧できます

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