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朱色の刻

ゲーム「緋色の欠片」の二次創作小説ブログです。真珠をメインに守護者×珠紀を目指しています。他にも翡翠、悠久、VitaminXなど、NLオンリー乙女ゲーム中心に書いています。

ことのは。(薄桜鬼:斎藤×千鶴)

2008-10-23-Thu-04:41



【ことのは。】

(薄桜鬼:斎藤×千鶴)







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「すきです」

 板張りの廊下を歩き、天井を見上げながら、千鶴はまるで文字を確かめるように言葉を紡ぐ。

「あいして、ます」

 再度、音の違う文字を紡ぎ、止める足。

 いつから。
 もしくは、どこから。

 自覚せぬままに大きくなった想いを胸に抱き、千鶴はひたすら言葉を紡いでいた。

 斎藤と共にこの会津に残り、数ヶ月が過ぎようとしていた。
 耳に入ってくる新選組の情報は、お世辞にも明るいものとは言えず、そのたびに、斎藤の眼差しに、ほんの僅か暗い色が見えたから。
 だから…

「………」

 閉ざされた雨戸にもかかわらず、外気の寒さは室内にまで忍び込んでくる。
 こんな事で相手の辛さが拭えるかと問われれば、解らないと応えるしかないけれど、でも…
「私は、嬉しかったから…」
 一番辛いときも、その言葉を告げてもらえただけで嬉しくなった。
 暖かくなって、幸せになれた。
 だから…
「すきです」
 言葉を紡ぎ、瞼を閉じて、ここには居ない存在へと想いを馳せる。

 きっと、目の前に来たら言えなくなってしまう。
 真っ直ぐな眼差しで見つめられては、それ以上に言葉を紡ぐ事など出来なくなってしまう。
 貴方が思うより、私は貴方を思っているのだと。
 それを相手に信じてもらうには、言葉にしなくてはならないのだと、そう、解っているのに。
 頬が熱くなり、喉の奥でつかえたように言葉が止まる。
 それを何度も経験し、そしてこのように練習しているわけなのだが…

「私は、何も出来ないけれど…でも」

 少しでも心が軽くなるのなら。
 少しでも嬉しいと想ってくれるなら。

「一さん…あいして ます」

 言葉を紡ぎ、想いを重ね。
 未だ顔を見て告げる事は出来ないけれど。
 でも……

「千鶴」

 囁きに似た音。
 手首に触れた温もり。
 幻聴かと疑う間もなく視界いっぱいに広がる濃紺の布地。
 それが、誰の着物なのか…千鶴は考えるまでもなく解っていた。
 抱きしめるではなく、包まれる。
 そんな事をする存在を、千鶴は一人しか知らなかった。
 同時に…

「俺は、オマエを愛している」

 自分が告げねばならぬ言葉を告げられて、千鶴は頬を膨らます。
 いつから聞いていたのか。
 もしくは、居たのならば声をかけてくれればいいのに。
 幾つか浮かぶ文句は結局言葉になる事は無く…

「お前の気持ちを嬉しく思う」

 同時に降りてくる唇に、千鶴は今日も声に出さずに言葉を紡ぐ。

 あなた を すき です。 あいして ます。 おしたいしております。

「お前を愛している」

 あぁ、やはり。
 緩まる眼差し。
 僅かに浮かぶ笑み。
 よくよく見なければ解らぬほどの表情の変化。

「私の言葉を一さんがおっしゃってくださっているんですね?」

 浮かべたかった表情を浮かべられ。
 告げたかった言葉を告げられた。

 だから…

「一さん、愛してます」

 言葉と同時にとっておきの笑みを。
 それはきっと………

 きっと……

 きっと…

「一さん?」

 反らされる眼差し。
 先ほどまでの笑みは見えない。
 共に顔をも横へと向けられたから。
 言葉を告げられた事が嬉しくて、想いを伝えてもらった事が嬉しくて、相手の言葉は自分の言葉。相手の表情は自分の表情。
 そう思ったから、告げなくてはならないと……
 灯りの灯らぬ廊下では、近づかなければ、その表情を見る事も困難で。
 先ほどまでは、すぐ目の前に顔があったのだから良かったのだが…
「嫌…でしたか?」
 勘違い…だったのだろうか。
 自分は告げられて嬉しかった。恐らく、通りがかって聞いてしまった斎藤も、嬉しかったと言ってくれている。
 だが、目の前にして告げられたくは無かったのかもしれない。
 理由は解らぬけれど…
 視線を下ろし。
 一歩後ろへ足を下げる。
 片手を相手の胸へと置いて。
「申し訳ありません…」
 相手から離れようと…
「何故、謝る」
 聞こえる声に顔を上げる。
 やはり、相手はこちらを見ない。だが、離れぬ手が動かぬ体が、相手が嫌がっては居ないという事を示していた。
 ならば何故…
 瞬きを、一度。二度、三度。
 ようやく、眼差しだけを向けられる。目が慣れてきたのか、大分確かになってくる相手の表情。いや、表情だけではない。僅かな色の変化も解るわけで…
「嬉しかったん…ですか?」
「そう言わなかったか?」
「…言いました」
 ほんの僅か、いつもよりも血色の良さそうな頬。
 その意味する事とはつまり……

 浮かぶ笑み。
 そっと腕を伸ばして、相手の背へと手を回し。
 頬に触れる相手の鼓動。
 同時に己の体を包む腕の力も強まって…
「…好きです」
「ああ」
「愛してます」
「俺もだ」
「誰よりも、何よりも、貴方を…」
「愛している」
 繰り返される愛の言葉に、重なる想いは己のものか相手のものか。
 冷えた外気までもを暖めて、会津での夜は更けていくのであった。



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あとがき。

アンケートでリクをいただいた、斎藤×千鶴の甘いお話なわけなのです…が…
何か、色々な意味で、失敗したんじゃなかろうかと。
まだ、斗南にわたる前のお話しで、戦い続いているくせに、妙にほのぼのした感じがしてしまうのは、ひたすら書いている間中、「あまあま」「あまあま」と繰り返していたせいです。
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